6 大きな木の伝説
「すげえなトーヤ!」
「何がだ?」
「だってよ、女神様に選ばれた人間ってことなんだろ?」
ベルが心底尊敬する、という表情で目をキラキラ輝かせた。
「そんでそんで、その『たすけで』ってのは何をするんだ?選ばれてなんかやったんだろ?すごいよな!」
「知らん」
トーヤがそっけなく答える。
「知らんって、なんかやったんだろうよ?」
「まあなんかはやったけどな、それが助けになったかどうかまでは俺は知らん」
「ええ~」
ベルのがっかりした声をトーヤは無視した。
「本当に分からん、今でもな」
トーヤが一度遠くを見てから視線を動かし、隣に座るシャンタルをちらっと見た。
シャンタルは相変わらず何も言わず、動かずに座ったままだ。
トーヤはベルに視線を戻し、話を続けた。
「まあな、そういうことも多いみたいだ」
「そういうことって?」
「何がなんだか分からんが、とりあえず神様の言う通りにしとくってことがだ」
「どういうこと?」
ベルが不思議そうな顔を少し前に出すようにし、トーヤに聞く。
「例えばな、これは聞いた話だが、ある時『ここに木を植えろ』って神様からお告げがあった」
「託宣ってやつだな」
「そうだ、そして言われたやつらは木を植えた。だがその場所がものすごく変な場所だ。その町だか村だかの通行の要所になる道のすぐ隣だ。通行の邪魔になるし、夏になると虫が
「なんだよそれ、すっげえつまんねえ」
「ああ、つまらんな。つまらんが仕方がない、そういう風に神様に言われたんだからな。多分そいつらもつまんねえなあと思いながら育てたんだろうよ、代々、代々な。そして木は
「すっげえ邪魔だな……」
ベルがげんなりしたような顔でそう言うと、横からアランも、
「なんとかならなかったのかよ、それ」
と、言葉を添えた。
「ならんな。何しろその木はお告げによって植えられたものだ。仕方なく人間の方が新しく道を作り、迂回して通ることにした。つまり木に土地を譲ったわけだ。譲った上で、それでもまだその木を育て続けた。何年も何十年もな」
「律儀なやつらだなあ、おれだったら頭にきてぶった切ってやってる」
ベルが顔を
「俺もそうしたかもな。だがそいつらにはそんなことできなかった、ただ神様に言われた通り、真面目に木を育て続けたんだ」
そう言って話を続けた。
「そしたらそんなある日、大きな山が崩れたんだ、突然」
「えっ!」
「えっ!」
ベルとアランが声を揃えて驚いた。
「そりゃもう大きな山崩れだったそうだ。大きな山の半分が崩れ、下手すりゃその下にある町も村も畑も全部埋まってしまって誰も助からんような、そんな山崩れだったのにな、その木が土砂を受け止めて流れを変えたもんで、みんな助かった」
「ええー!」
「たった1本の大きな木があったためにみんなが助かった、そのための木だったとやっとみんな分かってシャンタルの託宣に感謝したんだそうだ」
ベルが胡散臭そうな顔になる。
「ほんとうかよ~!」
「本当かどうかは知らんが、話してくれたやつは信じてたな」
「ええ~なんか信じられねえよ~」
ベルが椅子にもたれるようにのけぞり「ええーうそだろー」とまた言った。
「俺も信じられないが、伝説ってのはそんなもんかも知れんなあ」
アランがぼそっとそう言う。
「そうだな」
トーヤがアランに答えた。
「まあな、そういう話がいっぱいある。そういう話を信じたくなるような、そんな国だった」
「そんで、トーヤを助け手ってのだって言ったのがそこのシャンタルってわけなんだな」
アランの言葉にトーヤはまたシャンタルを見る。
「らしいな」
シャンタルは答えない。
「そんで結局その続きはどうなったんだよ?そのアマリアか?」
「マユリアだ」
「なんだっていいけどさ、そのもう1人の女神様がトーヤに会いに来たんだろ?」
「そうだな」
「そんでどんな話をしたんだよ?」
「話はしてねえ」
「は?なんだそりゃ?じゃあ何しにきたんだよ?」
ベルの疑問ももっともだ。
「おそらく、俺が目を覚ましたって聞いて確認に来たんだろうよ。顔見たらとっとと帰っていった」
「つれねえ女神様だなー」
「その後で今度は3人の人間が入ってきてな、それで色々話を聞いたり聞かれたりした」
「なんだ~女神様の話は終わりかよ~つまんね~」
またベルが椅子にもたれてぶうぶう文句を言った。
「まあそう言うな、そのうちまた出てくる」
「そうなのか?そんじゃ、その3人のおっさんの話でも聞くよ」
「1人はおっさんじゃねえけどな」
「まあなんでもいいよ、とっとと話してくれよ」
「おまえが話の腰折ったんだろうがよ」
アランがまたベルを
「そんじゃ続きの話だ。部屋に来たのはなんとかって大臣と神殿の神官と侍女頭の3人だった」
「女神様からは落ちるが、それでもまだ豪華な顔ぶれだな」
「なんか、もう豪華なのにも慣れたよな~なーんてこたあない」
アランの言葉にベルがそう言い、シャンタルは身動きもしない。
そしてトーヤは続きの話を始める。
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