17 おかえり

 一応通りすがりに「そういうお店」も横目で見つつも、色々と調べているうちにかなり遅くなったので戻ることになった。


「はあ、残念だなあ……」


 トーヤがため息をつきながら真っ暗になった海の上をカースの方向を目指してを動かす。

 

 今夜は半月。灯りが少ないカースの方向へも、薄いが月明かりがあるので迷うことなく進んでいける。

 潮目しおめもちょうど逆になっているようで快適に進む。


「あんまりいつまでも言ってるとミーヤさんに言いつけるぞ?」

「それだけはやめてください!」


 ダルはトーヤの反応を不思議に思いつつもなんとなく楽しくなってきた。


「それじゃあ黙ってぐことだな、うむ」

「はい……」


 大人しくトーヤが漕ぎ続ける。

 

 来た時に乗ってきた船にキノスで買った船をつないでいる。

 ダルはその綱がはずれたり切れたりしないように見張りながら、トーヤが漕ぐ船にゆったりと乗っていた。


「なんか、偉くなったみたいな、王様みたいな気分だな」

「なんだよそりゃ~ちょっと交代してくれよ」

「練習だって言ってたのはトーヤじゃないか」

「そりゃそうだが、なーんか最近ダルだけいい目見てるようで腹立ってきたぞ?」


 それを聞いてダルが楽しそうに笑う。


「まあせいぜいがんばりたまえ、トーヤ君」

「へいへいと……」

 

 キイキイと船を滑らせ秘密の洞窟の出口までようやく戻ってきた。

 買ってきた船も杭につなぐ。3艘が昼間より増えた水に少し揺れながら並んだ。


「こうしといた方がいいかも」


 ダルが、思いついたように買ってきた小船の櫓に小刀で「トーヤ」と名前を彫る。それをしっかり縛り付けておけば誰の船だか分かるだろうということだ。


「これで村のみんなも遠慮してこの船は使わねえんじゃねえかな」

「いい考えだな、王様」


 2人で月夜の下で笑う。


「しっかし疲れたな~この上また歩いて宮まで戻るのかよ」

「だな~」

「封鎖でさえなけりゃカースに行きたいところだよな」

「さすがに封鎖だからなあ」


 洞窟から外へ出るのは「王都からは出てないから大丈夫」と理屈をつけて船を出したものの、さすがに2人とも疲れていた。


「やっぱりキノスに泊ってくりゃ……嘘です、そんなこと思ってません」

「ならよろしい」


 そういうわけで、えっちらおっちらと休みながらなんとか洞窟を元の場所、聖なる湖のところまで戻ってきた。

 洞窟の出口から出ると2人とも地べたの上にへたり込む。


「疲れた……腹も減った……」

「でも戻っても多分食うもんないぞ、なんか買ってくりゃよかったなあ」

「本当だなあ」


 少し休んでから重い足を引きずって月夜の下を歩き出し、うようにして前の宮にやっと戻れた。 

 時刻としてはもう夜半をとっくに過ぎ、寝ずの番の衛士以外はとうに眠りについている時間である。

 2人とも目だけで合図してからそれぞれの部屋に入る。もう口を開くのも億劫おっくうであった。


 トーヤが部屋に入ると部屋のランプに火が入っていた。

 ほんのりと部屋を照らす灯りの中、テーブルの上に何かが乗っているのを見つける。

 例の遠足の時のパンが4つと水差し、果物が置いてある。


 おかえりなさい、お疲れさまでした

 何も食べていらっしゃらないかも知れないので一応置いておきます

 ダルさんと一緒に食べてください


 ミーヤの字の手紙が置いてあった。


 トーヤは一度に疲れが取れた気がした。

 ダルを呼んで、ありがたく2人でいただく。

 これを食べるといつもあの時、最初に食べた遠足気分のカース行きを思い出す。


 空腹が満たされて満足し2人とも一気に眠気を感じた。ダルが、もう部屋に戻るのも面倒だとばかりにトーヤのベッドに一緒にゴロッと横になり、そのまま雑魚寝ざこねのようにぐうぐう寝てしまった。


 朝、朝食を持って行ったがダルがいないとリルから聞き、ミーヤがそっとトーヤの部屋をのぞいてみる。思った通り2人とも遊び疲れた子供のようにまだ眠りこけていた。


 そっと近づき、母親のように2人に布団をかけ直す。そうしても2人ともびくとも動かず眠り続けているのを見てくすっと笑う。


 テーブルの上の食器は空っぽであった。手紙はなくなっている。トーヤがどこかに片付けたのであろう。


 自分が夜食を用意していたことを知ったらリルが気を悪くするかも知れない。リルは正直に2人が王都に遊びに行った、おいしいものを食べて帰るのだと信じているのだから。

 そう思ってパンを乗せていた食器を一度目立たぬようにテーブルから移動して、リルに知らせに出る。


「どうやらお帰りになってトーヤ様のお部屋で一緒にお休みになったようよ」

「まあ、そうだったの。本当に仲がいいのね」


 目が覚めたら食べられるようにと2人で2人分の朝食をトーヤの部屋に運ぶ。

 起こさぬようにそっと置いて2人で部屋を出ていった。


「お起きになったらお二人でお食べになるでしょう」

「そうね、また用ができたらお呼びになるでしょうね」


 リルとミーヤがそう言ってそっと部屋を出て、トーヤとダルはまだまだ深い眠りの中にいた。

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