7 ラーラ様
「まあ冗談はさておきだな」
トーヤはそう言うがルギは疑わしそうな目で見ている。
「そのラーラ様か? その人はなんで侍女として残ったんだ? 俺はマユリアが後宮に行くって聞いて、てっきりみんなその後はそうなるのかと思ってたぜ」
「そんなはずがなかろう。先代は歴代で一番美しいシャンタルだと言われていた、それで後宮にと望まれたのだ」
「歴代って二千年でか? 誰が見たんだよ、それ」
「まあ、そのぐらい美しいという意味だ。実際何もかも美しい方だ」
「あんたの感想はもういいとして、当代もかなりのべっぴんだよな」
「そうだな」
「そのラーラ様って人には後宮にって話はなかったのか?」
「今までにもそういう方はいらっしゃったようだが、ラーラ様にはなかったのではないかと思う。もしもそのような声があれば侍女として残れはしなかっただろう」
「なるほどな、神様の間は王様と同じぐらい偉くても人間に戻ったら王様の命令には逆らえないというわけか」
「そうだ」
なんとなく重い空気が流れる。
「神様ってのもなんか、なんて言えばいいのかな、ちょっとかわいそうだな」
「そう思うのは
「この国じゃそうなんだろうな」
トーヤはそう言ってからふっとため息をついた。
「でもな、考えてみろよ。生まれてすぐ親から取り上げられて十年は神様だ神様だって
ルギは何も答えない。
「そのラーラ様の前の人はどうしてるんだろうな?」
「さあな、俺も知らん」
「幸せだったらいいんだけどな」
「そうだな……」
2人の意見が一致した。
「それで、だな、だからそのラーラ様って人はなんで侍女になって残ったんだ?」
「それは知らん」
「今までもあったことなのか?」
「それはあったのではないかとは思うが、俺には分からん」
「なんか、におうな……」
トーヤが鼻をくんくんと鳴らしながら言う。
「きっとその人は秘密のことを知ってて、それを守るために残ったんじゃないのか?」
「俺もそうではないかと思った」
「それでラーラ様、か……」
シャンタルを連れ出せる可能性のある人間のことを言っているのだ。
「だが、そのラーラ様にお会いすることがまず困難だ」
「そんなに出てこねえのかよ」
「そうだ。奥宮の最奥にほぼシャンタルと一緒にいらっしゃるそうだ。シャンタルが表に出てこられる時には他の侍女が付くかマユリアにお渡しになる。話によると生まれてから一度も宮から出られたことがないとのことだ」
「それもまたすげえ話だな……」
「まあ、おまえの言うように翌日から人間に戻っても困惑なさるだけならば、いっそその方がお幸せなのかも知れんな」
「なんだかなあ……」
「そういうわけで、言ってはみたもののラーラ様もやはりむずかしいな」
「うーん……」
トーヤは諦めきれずにまだ何かを考えているようだった。
「そのラーラ様に会えねえかな?」
「誰がだ」
「俺なら一番手っ取り早いんだが、だめならあんたかミーヤが」
「また無茶を言う」
「ミーヤは会ったことあるのかな?」
「俺よりは可能性は高いが、ミーヤ自身がまだそれほどの立場にないからどうだろうな」
「そうか、リルもマユリアに名前を呼ばれただけで泣くほど感激してたしな。侍女でも立場が違う、か」
「そうだ。そもそもミーヤがマユリアに直接お言葉をいただくなど、本来ならありえないほどのことなのだ」
「そうか……」
だがやはり……
「なんで侍女になったのかが気になるな……」
「秘密については今は考えても仕方のないことだ。マユリアも話せる時になったら話してくださるとおっしゃっていた」
「……手伝ってはくれそうに思うんだがなあ……」
「なんのことだ」
「いや、ラーラ様だ。秘密を知っていてシャンタルを守るために残ってるとしたら、連れ出すのもきっと手伝ってくれる……いや」
トーヤはがばっと立ち上がった。
「むしろ、手伝うために残った、としたら……」
「ラーラ様がか?」
「ありえるんじゃねえか?」
「それは……」
ありえることだと思えた。
そもそもシャンタルの託宣とはどれもみんな信じられないようなことばかりだ。それが一つのことにつながっている。
誰か、天から下を見ているものがつながるように集まるように仕掛けているかのように。
「聞いてみるか……」
「誰にだ」
「知っていそうな誰かにだな」
そう言ってトーヤはとっととルギの部屋から出ていってしまった。
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