26 専用

「ミーヤさんにも聞いてみようか」


 ダルがそう言って寝台の横にぶら下がっている太くられた白と銀が混じった色のひもを引く。


 しゃらんしゃらん


 心地よい音がして侍女の控室にいるミーヤの耳に届くはずだ。

 この鈴は各部屋で少しずつ音が違い、誰が呼ばれたか分かるようになっている。

 

 すぐにミーヤがやってきたがリルも一緒であった。トーヤの部屋にダルもいるので一緒に付いてきたのだろうが、リルの前でこんな話をするわけにはいかない。


「どうなさいました?」

「いや、あの、えーと……なんか、トーヤが少し疲れたみたいでね、それでミーヤさんに来てもらったんだ」


 ダルが少し考えるようにしてからそう言う。


「だから俺も一度部屋に戻るよ。休ませてやった方がいいんだろうけど、俺といるとどうしてもしゃべってしまうから。ミーヤさん、見てやってくれる? そんでリルさん、俺は部屋でちょっとお茶して休憩することにするよ」

「分かりましたありがとうございます」


 ミーヤがそう言って跪いて礼をする。


「分かりました、私も一度ダル様をお連れします。お大事になさってください」


 リルもそう言って跪いて礼をするとダルと一緒に下がっていった。


「大丈夫ですか? 座っていて大丈夫ですか?」

「いや、違うんだよ」


 トーヤが苦笑しながら説明をする。


「そういうわけでな、リルの前で話をするわけにはいかなくてダルが機転を利かせたんだよ。健気けなげではあるが、あのべったりはちょっとまいるな」

「そうだったのですか」


 ミーヤもほっとしながら少しだけ笑う。


「リルの気持ちも分かります。ダルさんのことが心配で仕方ないんでしょうね」

「って、心配なのは俺じゃなくてダルかよ、具合悪いのは俺だったはずなんだが」

「あら、リルに心配してもらいたいんですね」

「い、いや、違うって! そうじゃなくてだな」

「冗談です」


 ミーヤがそう言って笑ってくれた。この笑顔なら怖くない。


「ですが、あの時ですか……私にもいきなりトーヤがつらそうになったとしか分かりません」

「やっぱりそうか。ってことはルギもそうかな。フェイはもう聞くこともできねえしな」

「ええ……」


 あの時、フェイもひどく心配した顔をしていたのは思い出せるからかなりつらそうには見えたんだろうが、聞けたとしてもやはり同じだろうと思えた。


「ルギは、もしかしたら違うかも知れませんね」

「え?」

「ルギはマユリアの命に従う人間です。あの時もトーヤに付いているようにと言われていたらトーヤを見ていたかも知れません」

「そういや、あの時ルギだけ普通に反応してたな。俺が具合悪くなったことも不思議には思わなかったようだが……うーん、あいつはいつもああだからなあ」

「それはそうですね」

「まあ都合にするよ」


 ふうっと息をするがやはりまだ具合が悪そうだ。


「大丈夫ですか? やはり少しおやすみになった方が」

「いや、かなりましになってきたから大丈夫だろう。だけどな、やっぱり気にはなる。もしかしたらあいつにも何かあったんじゃねえのか……」

「あいつ?」

「シャンタルだよ」

「シャンタルにですか?」

「そうだ」

「どうしてですか?」

「なんでかな、あいつと関係があると思ったらなんとなくそんな気がしてきた……でもなあ、こんないいかげんな勘みたいなもんで何か変わった様子がなかったか聞くのもあれかなあ……」

「一応キリエ様にお伺いしてみましょうか」

「その方がいいのかもな。何もなけりゃいいし、うん、頼むな」

「今から行ってきますね。それと、リルにこちらにもお茶を届けてもらうように頼んでおきます」

「い、いや、大丈夫、リルにはダル専用でいてもらってくれていいから!」

 

 トーヤが慌てたようにそう言うと、


「大丈夫ですよ、忙しい時にはそうすることもあると前にも言いましたでしょ」


 クスッと笑いながらミーヤはそう言って部屋を出ていった。


 トーヤはミーヤの手のひらの上でうまく転がされているように感じて「たはー」というような声が出てしまう。


 それでも、その状況がなんだかとても心地よくて、


「まあいいや、俺はミーヤ専用で」


 笑いながらそう口に出して言ってしまってから、


「専用ってなんだよ、専用って!」


 と、自分の言葉に自分で赤面した。

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