11 秘密
「は?」
ミーヤとダル、そしてルギまでが目を見開いて驚く。
「こいつが? 男?」
「そうです、男性です」
「はあ?」
トーヤが丸い目のままシャンタルを見る。
どこから見てもきれいな女の子としか見えない……
「嘘だろ?」
「本当です」
「えっと……」
トーヤが腕組みをし、右手の人差指で右の頬をカリカリとかきながら考える。
「えっと……それ、ここで見せろ、ってわけにも、いかんだろうな……」
「ええ、できれば」
そう言ってマユリアがいつもの様子に近い顔で少しだけ笑った。
「男……」
そう言ってまたトーヤがシャンタルを見る。
やはりどこから見てもきれいな、それも普通以上に、マユリアとは違う形だが人間とは思えないほどきれいな女の子としか見えない。
「そうか、男か……」
奇しくも生き神を連れ出すことをごまかすように男の子と見せかけようとして用意した衣服、そして手形がそのまま生きる形になってしまったことが皮肉だった。
「で? なんで男だと沈めなくちゃなんねえんだ?」
「このまま成長なさるといつか男性だと知られることになります、このままマユリアにおなりいただくわけにはいきません」
「それ、本当はあんたが託宣間違ったんじゃねえのか? こいつは本当は関係のない……」
そこまで言ってトーヤが口を閉ざす。
「いや、それはありえねえな……」
マユリアが託宣を間違えて関係のない男の子を生む親御様を選んだ可能性は低いとトーヤは思った。
「トーヤには分かりますよね」
ラーラ様がそう言った。
「ああ……」
認めたくはないがそれはない、としか思えなかった。
「な、なんでだ?」
ダルが不思議そうに聞いてきたが、
「すまんが、それは今言えねえ……」
ふうっと息を吐く。
「それはここでは言えない秘密だ。悪いが今言うわけにはいかねえんだ」
答えられない時には沈黙しかない、か、とトーヤは思った。
「ちょこっとだけあんたらの気持ちが分かった。分かったからって全部納得したってわけじゃねえけどな」
はっとため息をつく。
「それは……」
マユリアが口を開いた。
「おそらく、それはわたくしが知らない秘密なのでしょうね」
「え?」
ダルと、そしてルギも驚いた顔をする。
すべての秘密を知るものと思われたマユリアにも知らないことがある。
「そうだな。そういう意味では全部を知ってたのはラーラ様だけだな」
「そうです……」
母のような方が静かに目を閉じる。
「でもまあ、今はそういう意味ではみんながこれ以外の秘密を共有した、いわば共犯者だ」
トーヤがマユリアをじっと見た。
「だからこそ言う。なあ、やめてやっちゃくれねえかな、こいつを沈めるっての。男だってだけで沈めるなんてかわいそうだろ。好きで男に生まれたわけじゃなし」
「それだけではありませんから……」
「そうか……そんで、他にはどんなわけがあるんだ?」
マユリアが先を続ける。
「先程も申しました通り、当代が男性にお生まれになったのは全てを逆にするため、そのために常のシャンタルとは正反対の形でお生まれになりました。ですが、シャンタルに違いはありません。シャンタルではないものに託宣などできないのですから」
「黒のシャンタル」の託宣はとても多く、それがことごとく本当になるとカースでナスタにも聞いた。
「らしいな、こいつはすげえって俺も聞いた」
「そうです。当代がシャンタルであると証明なさるかのように、いえ、それ以上の形でこの国に潤いをもたらされました、託宣の通り」
そう言ってトーヤの顔を見る。
「託宣か……」
「ええ、そうです」
「で? そんだけの力があるから沈めるってのか?」
「もう一つの理由はそれです」
「なんで力があったら沈めるんだよ」
「分かりません」
「は?」
「理由は分かりませんがお力を持つからこそ、一度湖にお戻りにならないといけないのだそうです」
「そうです、って誰が言ったんだよ、それ」
「千年前の託宣です」
「そういやそう言ってたか……」
「マユリアのおっしゃる通り、わたくしもそうだと知っております。なぜかまでは分かりませんが」
ラーラ様が言う。
「知っても知っても分からんこと、だな……」
ふうっとため息をつく。
「まあいいや、そのへんのことは結局誰に聞いても分かんねえんだろ?」
「その通りです」
「とにかくあんたらはどうあってもこいつを湖に沈めるってわけだ。で、理由はもうそれで終わりか?」
「運命を知るためです」
「またか……」
つくづく嫌になった風にげんなりとした顔をトーヤがした。
「こいつの運命か」
「いえ、世界のです」
「また出た・・」
もう一度げんなりとする。
「そういやラーラ様も言ってたな、世界のためって」
「ええ、申しました」
「あ、ああ、そんじゃあれか、こいつの託宣、誰のためにしたのか不思議だったが、結局世界のためにしたってことになるのか?」
「おっしゃる通りです」
「なるほどな……」
ミーヤと話していた「誰のための何のための託宣か」の答えをどうやら得られたようだが、理解も納得もできない答えであった。
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