2 友の友

「本当に小さな子を泣かせるのが得意ですね」


 からかうようにミーヤがそう言い、


「いや、ねえだろう! そんなことしたことねえだろ!」


 トーヤが慌てたように反論する。


「そうですか? フェイも何回も泣かされてましたけど?」

「いや、あれはだな……」


 反論できない。


「フェイが、崖から飛び降りた時は本当にびっくりしたって」

「え?」


 自分にしがみついて泣いていたシャンタルの言葉にトーヤが驚く。


「シャンタルはフェイとお友達になったんです。フェイがシャンタルにトーヤを信じてほしいって言ってくれたんです」

「フェイって……」

 

 そう言って首からシャンタルを引き離して顔を見る。


「かっこよくなりたいの?」

「え!?」

「かっこよくなりたいってため息ついてたってフェイが」

「ええっ!?」


 どうなってるんだと言いたげな顔でミーヤを振り向くとくすくすと笑っている。


「言いそうですよね」

「いや、いや、あのな」

「フェイにそう言ったんですか?」

「いや、あの言ったってかな、あの……」


 確かに言った。だがそれはフェイの前だけだ。あの時、周囲には誰もいなかった。聞いていた者は誰もいなかった。では誰が聞いていたと言うのだろう?


「フェイか……」

「フェイです」


 ミーヤがトーヤを見てにこやかに笑う。


「そうか、フェイがそんなこと言ったのか、あいつ、おしゃべりだな」

「フェイとお友達になったの」


 シャンタルが手のひらをそっと開いて見せる。青い小鳥が黒い瞳をくるくると光らせて乗っている。


「そうか、友達になったか……」


 トーヤが青い小鳥をそっと撫でる。うれしそうに小鳥が笑ったようにシャンタルには見えた。


「はい、ミーヤ」


 そう言ってそっとミーヤに「お友達」を返す。

 ミーヤもそっと撫でてから、また大事に包み直して上着の隠しに直した。


「そうか、そういやあったよな、そういうのも」

「何がですか?」

「いや、仲良くなる方法だよ」

「仲良くなる方法?」

「そうだよ」


 前に「お茶会」を始める時に「どうやって仲良くなればいいのか」を話したことを思い出した。


「そういえば、あまりいい方法がなかったんですよね」

「だけどな、今もう一つ浮かんだんだよ。ダチのダチはダチだ、なあ」

 

 そう言ってシャンタルの頭をまたガシガシと撫でる。

 銀色の髪がぐしゃぐしゃになった。


「髪が乱れてしまうではありませんか」


 そう言ってミーヤが顔をしかめる。


「いいじゃねえか、なあダチだもんな」

「ダチって?」

「お友達をトーヤ風に言った言い方です。でも覚えなくて構いませんよ」


 急いでミーヤがそう説明する。


「トーヤ風……『むなくそわるい』と一緒?」

「おい!」

「ええ、そうです」


 ミーヤがくすくす笑う。

 トーヤは久しぶりに見るミーヤの笑顔にうれしくなった。


「本当に一段落したんだな……」

「はい」

「そんじゃまあ、後はどうするかまた話をしなくちゃな」

「ダチのダチって?」


 まだ気になるようでシャンタルが聞く。


「ええと、シャンタルはフェイとお友達になってくださいましたよね? そしてフェイがトーヤを信じてほしいと言ってくれてシャンタルは信じてくれました。フェイはシャンタルのお友達で、そしてトーヤはフェイのお友達です。だからトーヤはシャンタルの友達の友達ということです」

「うーん……」


 分かったような分からないような顔をする。


「まあいいじゃねえかよ。今はもうおまえは俺のダチだ」

「ダチってやめてください」

「相変わらずお固いよな」


 そう言ってうれしそうに笑ってトーヤが続ける。


「そんじゃおまえは俺の友達だ、これでいいか?」

「はい、それでしたら」

「お友達?」

「そうだ」


 トーヤが立ち上がり「よっ」と声をかけながらシャンタルを抱き上げた。


「フェイはこうやって俺になついて俺の友達になったんだとよ。だからおまえもこうして俺の友達になりゃそんでいいだろ?」

「トーヤとお友達……」


 なんとなく不満そうな顔をする。


「なんだ、嫌か?」

「嫌じゃないけど……」


 なんだか違うという顔をする。


「シャンタルのお友達はフェイだけだと思う」

「はっきり言うなあ」


 そう言って満面の笑みを浮かべるトーヤに怒っていないようだとシャンタルが思う。


「そんじゃなんだろうな、うん、じゃあ仲間だ、それでいいか?」

「仲間?」

「そうだ。これからおまえは俺と一蓮托生いちれんたくしょうの旅に出ることになるらしい。長い付き合いになりそうだしな。だから友達じゃなくて仲間だ」

「仲間……」


 困ったような顔をしてミーヤを見る。


「そうですね。呼び方はなんでもいいのではないでしょうか」

「そうだな、呼び方なんでどうでもいい。まあなんでもいいんだよ。これから仲良くなろうぜ、な」


 そう満面の笑みで抱き上げたままのシャンタルに言う。


 シャンタルはじっと見ていたがいきなり、


 くうう~


 空腹でお腹が鳴った。


「今の何!?」

 

 初めての経験にシャンタルは戸惑った顔をし、トーヤとミーヤが顔を見合わせて笑う。


「生きてる印だ。腹減ってるんだな、おまえ。そういやまだあった、仲良くなる方法。一緒に飯を食うんだ、なんか持ってきてもらおうぜ」

「ええ、そうですね、食事係の方も喜ばれると思います」

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