5 墓参
「だからとりあえず、ルギに
村長に連れられて村のはずれにある墓地に行くと、海岸に打ち上げられたトーヤの仲間たちの
「名前も分かりませんでしたもので」
村長が言うように一人一人の名前はなかったが、「31人がここに眠る」と書かれてあった。
「31人。ってことは、海に飲まれたやつはいなかったんだな、全員がここにいるってことか……」
「さようですか、31人で全員だったのですな、よかったです。せめてもの慰めです」
トーヤの言葉に村長が静かに
そこそこの高齢だろうに、平均的な身長のトーヤよりそれでもまだ少しばかり高い位置にある頭がトーヤの視線のあたりまで低くなった。
当初、船に乗ったのはトーヤを含めて33人であった。
だが途中の港で一人が降りた。降りたと言うよりもケンカが原因で降ろされたと言った方が正しい。
自分だけが降ろされるのは不公平だと船長に文句を言ったが、酔った挙げ句にほぼ一方的にケンカを売った者をそのまま乗せておくのは今後の長旅のためにも良くないとの判断の結果であった。小さな心配事でも取り除いておかないと全員の命取りになる可能性もある。だが今となっては降ろされた男にとってそれが幸いとなったのは皮肉なものだった。
墓標に花と、さっき村人に配ったのと同じ菓子を供え、トーヤも
仮にも数ヶ月を一緒に過ごした男たちだ、それなりに情もある。自分だけが生き残ったことを思うと、やはりなんとも言えない感情が湧き上がってきた。
「どうしていいものか分かりませんでしたもので」
そう言われて見せられたのは、海岸に打ち上げられた船に積んでいた品物たちだった。
船の備品もあれば買い付けて乗せていた商品もある。高価な品もあれば見るからに安価な雑貨のような物もある。まともな物も、ご丁寧に多少壊れた物もきちんと一応の分類をして並べてある。乗船していた者たちの私物もあるように見えた。
「これはこの村で使ってください。不要な物は処分してもらって構わない」
どうすると言われても困る、元々がトーヤの物ではない。それにあの墓標の下に眠る者たちはこれからずっとこの村で世話になるのだ。だったらそのために使ってもらうのが一番いい方法だろう。トーヤの答えに村長も承諾をした。
一見すると
だが、トーヤの意識はずっと自分の背後にも配られていた。
(どこに行くにもきっちり付いてきやがるな)
トーヤにはミーヤも付き添ってきたが、そのさらに後ろから体の大きな
村人の中にはいぶかしそうにルギを見る者もいたが、それでもこの男も宮からの来客である、そういうものなのだろうと思ったのか、すぐに慣れたようで誰も気にしなくなっていた。
そうしているうちに村長が泊まって行ってほしいと言い出した。
「長い時間馬車に揺られてお疲れでしょう、大したもてなしはできませんがこんな機会もめったとありますまい、とんぼ返りなどせずどうぞお泊りを」
遅くなったらマユリアが滞在していた貴族の別荘に世話になるつもりだとミーヤは言っていたが、トーヤが村長に世話になりたいと主張した。
「もっとカースのことを知りたかったからな。お貴族様の家なんぞ行ってもなんの足しにもならん。それよりは村の人間と親しくしといた方が後々使えると思ったんだよ」
ミーヤは本心ではどう思っていたか分からないが、トーヤの意見を入れ、では世話になりますと村長に頭を下げた。
村長はうれしそうに村人たちに指示を出し、3人を迎える準備が整えられていった。
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