11 会いたい
その日、昼食の時間になってもシャンタルは寝室から出てこようとはしなかった。
食事係のセレンが心配そうに一切手を付けられていない食事を下げていく。
「あの、キリエ様とミーヤの食事はいかがいたしましょう」
「ええ、持って来てください」
本当のところは食べる気などしないが、これからまだまだ戦いが続くのだ。寝食を
セレンが持って来てくれた食事を2人で黙々と食べる。味など分かるはずがない。だが食べなければいけない。
キリエとミーヤが食事を終えてもシャンタルは起きてくる気配がなかった。
何度かそっと部屋を伺う。起きているようなのに寝台の上で寝返りを打ち、ため息をついてはそのままじっと布団の中にいる。
「どうお声をかけていいものか……」
「ですが、このままというわけにも参りませんし」
「ええ……」
重い気持ちのまま2人で寝室に入る。
「シャンタル、一度お起きになられませんか?」
「嫌、起きたくないの……」
そう言って背を向ける。
「何をそんなにご機嫌を損ねていらっしゃるのか教えてください」
キリエが言うと、後ろを向いたまま、
「怖かったの……」
そうとだけ答える。
「はい、それは承りました。それでどうしてそのように寝たままでいらっしゃるのでしょう」
「だって!」
シャンタルがこちらに顔だけ向けて続ける。
「シャンタルはこんなに怖かったのに、どうしてラーラ様もマユリアも来てくれないの? お二人共どこにいるの? どうして戻ってきてくれないの?」
言うだけ言うとふいっとまた後ろを向く。
「シャンタル……」
ようやく理解できた。
すねているのだ。
自分があれほど恐ろしい目に
「シャンタル……」
キリエもミーヤも胸が
今、シャンタルが一番会いたいと思っているお二人が、シャンタルが怖いと思ったあの夢、あのままに水の中にシャンタルを沈める。そんな残酷な事実をどう伝えるべきなのか。
「シャンタル」
意を決するようにキリエが声をかける。
「お二人は、シャンタルがご自分のお役目を理解なさって、そして前に進めるようになられたらお戻りくださいますよ」
「え?」
布団の中から首だけ出してキリエを見る。
「お役目って?」
「それは……」
キリエが目を閉じる。シャンタルに心の中を覗かれまいとするかのように。
「それについては落ち着いてゆっくりお話しいたしましょう。キリエたちも急ぎ過ぎました」
「そうなの?」
「はい。シャンタルがまるでマユリアのようでいらっしゃるもので、随分と急いで大人になられたと思いました。それで慌ててしまったのです。シャンタルはまだまだお小さい子どものままのシャンタルでいらっしゃったのに……お許しください」
2人で頭を下げる。
シャンタルは布団の中からじっと2人を見て、
「マユリアと一緒がよかったの」
ぼそりとそう言う。
「マユリアになりたかったの」
やはり思った通りマユリアのつもりで真似ていたようだ。
「ラーラ様にもなりたかったの」
「シャンタル……」
幼い
「ラーラ様もマユリアもシャンタルだったのでしょう? シャンタルもお二人のようになりたい……」
あまりのいじらしさにキリエが声を失う。
ミーヤも言葉が浮かばない。
たった十日前にはまるでお人形だったシャンタル。
トーヤが「心を開け」と言っても不可能ではないかと思われた。
心を持つ存在とはとても思えなかったからだ。
今は、その心があるためにさびしさに押しつぶされそうになり、大事な人の真似をすることでその人になろうとしていた、近づこうとしていた。
その心を残酷な現実で引き裂かねばならない。
それを伝えねば前には進めない。
シャンタルの家族に、大事な人たちに戻ってきてはもらえない。
一刻も早くトーヤに助けを求めてもらう。
できるだけ少ない傷でそこまで到達できればよかったのだが、焦る気持ちで一番深い傷を作らねばならなくなってしまった……
「シャンタル……」
キリエが考え考えようやく口を開く。
「とりあえず一度お起きください。服も着てらっしゃらないままです。本当に風邪をひいてしまいますよ」
「いいの、風邪をひいてもいいの」
またそう言ってぷいと向こうを向く。
「シャンタル、ではそのままで結構ですからキリエの話をお聞きください」
シャンタルはあちらを向いたままだがキリエが続ける。
「みんな、キリエもミーヤも他の侍女たちも、みんなシャンタルを好きでございます。大事でございます。ですが、シャンタルを一番思っていらっしゃるのはマユリアとラーラ様です」
そう言われてシャンタルがくるっとキリエを向き直る。
「何があろうともお二人はシャンタルのためになさっていらっしゃるのです。それをお信じください。シャンタルがお生まれになられてからお二人がシャンタルのためにどれほどお心を
それだけ言うとキリエが静かに頭を下げた。
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