16 親御様
「まあ女の話はそれでよく分かった。俺もその、キノスだっけ? 行くことがあるなら楽しみにしとくよ」
「ガキが一人前の口を聞きおるわ」
村長がそう言ってまた笑う。
「そんで、黒のシャンタルだがな、じいさんはどう思ってるんだ?」
「どうとは?」
「
「村だけではないが嫌う者もおるの、それが本当だ」
「じいさんは?」
「わしは……、わしも正直、なぜなのかと思ってこの十年を過ごしてきた」
「あのシャンタルの親御様だったか? その母親がキノスの人間の誰かとってこと、ねえのかよ? キノスの人間もシャンタリオ人だろ? だったら父親の可能性とかあるんじゃねえのか?」
「それはない」
きっぱりと村長が言った。
「シャンタルに選ばれるのは
「異質?」
「ああ、シャンタルや宮に対してあまり
「なるほど、そのへんも面白いってわけか?」
「まあ、そういう部分もあるの」
また
「ってことは、黒のシャンタルは両親共に生粋のシャンタリオ人ってことになるのか?」
「その通りじゃ」
「じゃあ、今のシャンタルの髪や肌や目はなんであんな色なんだ」
「誰にも分からん。神のご意思だろうということしかな」
「ふうむ……」
黒のシャンタルについてはこれ以上のことは分からなさそうだとトーヤは思った。
おそらく、シャンタル本人やマユリア、他の神官だの王様だのの偉い人はもちろん、村長のように年経る長老にすら分からないのならもう誰にも分かることはない、そんな不思議だ。
「そんで、じいさんもあまりいい感じは持ってなかったってことだな?」
「いい感じ、か」
村長は少し笑った。
「なかなか柔らかい言い方じゃの、気に入った。まあそうじゃな、いい感じは持ってなかったな、早めに交代が来ないかと思っておったかな」
「なんでなんだ? なんか嫌なこととか困ったこととかがあったのか?」
「いや、何もない」
あっさりと認める。
「ナスタも言っておっただろうが、それどころか今のシャンタルは、黒のシャンタルはそれはもう国に対して大きな
口ではそう言いながら親しそうにトーヤを見る村長の瞳は柔らかく優しかった。
「じゃからまあ、いい感じではない、のは、いつもとは違うことを怖いと思う頭の固いわしのような人間じゃな」
「そうか」
もしかして、とトーヤは思った。
宮にも村長のように今のシャンタルを良しとしない人間がいて、そのようなやつらがシャンタルを消そうと思っているのか? それらから守ってくれとマユリアは言ってるのか?
「いや、そうじゃねえな……」
「なんじゃ?」
「いや、こっちの話だ」
もしもそうならすぐにでも助けを求めてくるはずだ。そのための「助け手」ならば。
「まあそれはいいや……、そんで、シャンタルの交代について聞きたいんだよ。じいさんはもう何回も経験してるんだろ? どういう感じなんだ?」
「どういう感じとは?」
「交代の時になんか変わったことが起きたとか、そういうことあったか?」
「ああ、いや、そういうことはないな。いつもすんなりと交代なさる」
「親が……、親御様か? それが子どもを取られたくなくて逃げた、ってな話は聞いたことあるか?」
「親御様がか?」
村長はきょとんとした顔で言った。
「まさか、シャンタルの親となるのは誇らしいことじゃ、そんなことをする人間がおるとは考えられんな」
ミーヤも言っていた通り、やはりこの国ではそちらの方が「普通」なのだ。
子どもを取られたと思う親はいない。心の中では、本心では別れをさびしく悲しく思っていたとしても、神に選ばれた子の栄誉を奪うようなこと、逃げるなんて考える親はいないのであろう。
「じいさん、こっからは内緒の話で頼みたいんだが……」
「なんだ?」
「これは、ダルももう聞いて知ってることだが、あいつが話すかどうかは分からんからな。だからくれぐれも内緒で頼む」
「分かった、誓おう」
「うん……」
そうしてトーヤは「親御様」が逃げたことを話した。
「なんと、そんなことが……」
「俺はな、俺の感覚ではな、親が子どもを取られるなんて逃げて当たり前のことなんだよ、だがこの国では違うと言う。それをじいさんにも聞いてみたかった」
「そうか……」
村長はしばらく考え混んでいたが、やがて気持ちを固めたようにトーヤに話した。
「親御様がどこの誰かはいつも一応秘密にはされる。だがな、わしは当代と先代の親御様についてある話を聞いたことがある。嘘か本当かは分からんがな」
そうしてトーヤに噂としてある話をしてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます