6 二度目の共鳴

 シャンタルが首をひねりながら言う。


「まず、わたくしがそのような見知らぬ者の中に入ろうとした、それが信じられません。ですが、あの時、真っ暗で音もなく何も分からなかった時、わたくしはラーラ様とマユリアを探していたことは覚えています。その時に『誰か』を見つけたことも」

「ええ、それがトーヤです」

「外の国から来た客人……」

「はい、そうです。そしてシャンタルを助けてくれる『助け手たすけで』です」

「その者が……」


 3度目の共鳴から話してよかったように思われた。シャンタルがトーヤを助け手として認識してくれたように思われた。だが……


「ですが、弾き飛ばされたのでしょう?」

「は、はい」

「なぜです?」


 神たる身の自分を弾き飛ばす、嫌がるなど信じられないという顔をしている。

 これまで意識されていなかったとしても、ラーラ様もマユリアもシャンタルを受け入れ、その体をお貸しになっておられた。それが普通だと思っているシャンタルには、おのれが拒否されたことが信じられない。


「トーヤは自由な者です」


 キリエがきっぱりと言う。


「トーヤはこの国の生まれではありません。そしてその魂は自由です。シャンタルだからではなく、誰にも支配されることを嫌う者です。ですから相手が誰であろうとそのようなことを許す者ではないのです」

「自由な者……」


 シャンタルがキリエをじっと見る。


「なぜそのような者がこの国にいるのです?」

「分かりません。ですが、シャンタルの託宣により選ばれてこの国に来たのです。トーヤが『嵐の夜に西の海岸に現れた助け手』なのです」

「わたくしが選んだ者……」

「はい、さようでございます」


 キリエが願いを込めるように言葉を続けた。


「シャンタルがご自身で選んだ助け手なのでございます。どうぞトーヤに助けをお求めください」


 深く深く頭を下げる。


「助けを……」

「はい、お願いいたします」


 ミーヤも続けて頭を下げる。


「でも、わたくしを拒否したのですよね?」

「それは、シャンタルが自分の身内みのうちに入ることを拒んだのでございます。シャンタルを助けることを拒んだのではございません。はっきりと申しました、シャンタルがご自分で助けを求められたらその時は助ける、と」


 シャンタルは釈然しゃくぜんとしないという顔をしている。


「わたくしを拒む者に助けを、ですか……なんでしょう、なんだか……」


 一つ考えるようにしてから、


「嫌です」


 そう言う。


「シャンタル……」

「気が進みません」

「気が進む進まないではないのです、頼まなければシャンタルは湖の底に沈み、命を失い、そう、死ぬのです」


 キリエが言うがいやいやをするように首を横に振る。


「嫌です、その者をあまり好むようには思えません」

「好き嫌いではないのです」


 ミーヤも言う。


「シャンタルの御為です。どうぞお心をお開きください」

「嫌です」


 何を言っても嫌だとしか言わない。


「シャンタル……」

「それよりも二度目の共鳴とやらの話を聞かせてください。気になります」


 この状態で話してもいいのであろうか。ミーヤがキリエを見る。


「ミーヤ……」


 ここまできたら話してしまうしかない。キリエの言葉にミーヤも頷く。


「分かりました、お話いたします」

「はい」


 もう一度シャンタルが座り直す。まるで小さなマユリア。あでやかで光を放つような、まだ幼さを残しながらも目をひきつけて離さぬ魅力……


「二度目の共鳴はある日の朝早くにございました。私はトーヤの世話役として付いております。その朝、トーヤを起こすために部屋に入りましたら、トーヤがひどく苦しんでおりました」


 思い出しながら続ける。


「驚いて揺り起こしたのですが『助けて』と誰かに助けを求めるように、全身に汗をかきながら苦しんでいて、しばらく目を覚ましませんでした」


 思い出すと足が震えそうだ。


「このまま死んでしまうのではないか、そう思うぐらいの苦しみようでございました。それで手を握って、何度もゆすっているとやっと目を覚まして『夢を見た』そう申しました」

「夢、をですか」

「はい」


 ミーヤが続ける。


「話を聞き、最初はトーヤがこの国に運ばれた嵐の時の夢だと思いました」

「トーヤは乗っていた船が嵐で沈み、それでこの国の海岸に流れ着いたのでございます」


 補足するようにキリエが添える。


「はい、そうなのです。なのでそれを思い出したのだろう、そう言っていたのですが、違う、と」

「違う?」

「はい、自分が巻き込まれたのは海だがあれは海水ではなく真水であった、怖かったと。それまで嵐で死にかけても、何があっても怖いなどと言うことのなかったトーヤの口から初めて聞きました、怖い、と」

「怖い……」

「はい」


 ミーヤが頷く。


「その前夜、トーヤはラーラ様とお話をさせていただきました。託宣のことなど色々とお話を聞いたようです。その前には少し遠出もしてきておりました。それで、心身共に疲れたのでそのような夢を見たのだろう、そう申しましたがトーヤは納得してはいないようでした。それでキリエ様を通してマユリアにお尋ねしたのですが」


 そうしてミーヤはキリエを見る。ミーヤもまだその先のことは聞いたことがない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る