10 もう一度の約束
フェイに会いに行って戻ると、ダルが村に戻る準備をしていた。
「なんだよ、もう帰っちまうのかよ」
「うん、今日までって予定だったしな」
「そんなこと言わずにもうちょっといりゃいいのに」
「いや、帰るよ。トーヤだって色々考えることもあるだろう?」
暗にあの洞窟の到着先のことを言っているのだと思った。
「そうだな……」
トーヤもそう返事をする。
「じゃ、また
ダルがじっとトーヤを見て言う。
カースの今は親しくなった村人たち、彼らと混じって楽しく飲めば(トーヤはジュースだが)気持ちも晴れる。だが同時にフェイのことも思い出すのだ。
「うん、行くよ。だからじいさんに俺が行くまで死ぬなって言っといてくれよな」
「そりゃ大丈夫だ、じいちゃんうちで一番元気だからな」
ダルがそう言って笑って宮から去っていった。
トーヤは部屋に戻り1人で考えていた。
ダルが見た、あの湖での光景のことをミーヤにどう話すべきか。
まずその前に洞窟のことを話さなければならない。
(そうだった、フェイがいるから洞窟のことは話してなかったんだったな)
フェイがミーヤの言動を、ミーヤがトーヤとどう接するかをキリエに報告させられていたので、知らせないためにもそういう話はできなかったのだ。
だが、自分が逃げるための話だ。ミーヤは逃げたいなら協力してくれると言ったが楽しくできる話でもない。
それに今はトーヤは知りたいと思っていた。
シャンタルとマユリアが自分に何をやらせようとしているのかを。
この国を去るのなら、それを知ってから去りたいと思っている。
自分の役割が何かを知りたいと思っている。
(そうだ、だから、もしもの時のため、とミーヤに話そう。それなら話しやすい)
そう思うと少し心が楽になった。
(それに、もしかしたらまたキリエが誰かをミーヤにつけてくるかも知れない)
もうそんなことはないように思えたが、もしかしたらということもある。
そのためにもできるだけ早く話しておこう、そう思ってトーヤはミーヤを部屋に呼んだ。
「では、あの日、その洞窟に行くためにあんな騒ぎを起こしたというわけですか」
「……それもあった」
「それも?」
「だがまあ、結局はそうならなかったからな……」
「……そうですね……」
あの時、トーヤはもしもの時のためにミーヤに別れを告げたい、行ってしまうかも知れないと伝えたいと思った。
ミーヤも知っていた。トーヤがもしもの時のために別れを告げたかったことを。
言葉にしなくても、そうであったことが2人の間に通じていた、理解していた。
「ダルがな、ちびも何か感じてたって言ってた」
「フェイも?」
「ああ」
トーヤはあの洞窟でダルと話したことを手短にまとめて話した。
「では、もうダルさんは知ってるんですね?」
「ああ」
「よかった、トーヤに味方が増えて……」
ミーヤがほっとしたように言う。
「だからな、ダルに言ったように今はまだ行かないと決めたんだ」
「そうですか……」
「俺は、俺の役割を知りたい」
「はい」
「だけどな、やばいと思ったらとっとと逃げる、そこだけは譲れない」
「はい」
「そんで、ダルにも言ったんだが、もしも逃げると決めてももうそのことは言わない、黙って1人でいなくなる」
「はい」
「黙って逃げるってことは、それだけやばい時ってことだからな。だから誰にも言わずに行く」
「はい」
「でもな、できるだけちゃんと役割を果たしてから、ちゃんとミーヤに挨拶をしてからこの国から出ていきたい」
「この国を……」
ミーヤは胸がズキッと痛んだ。
「まだ何がどうなるか全く分からん。役目が終わったらそのままここに残るかも知れないしな」
それを聞いてホッともする。
「だからもう一度約束する。何があっても、どれだけ離れてもミーヤのことは忘れない。フェイのことも、もちろんダルのことも……」
「はい……」
それでもう十分であった。
何があってもどれだけ離れても心の距離は近い、それで十分だとミーヤは思った。
じっとトーヤの目をみつめてもう一度言った。
「はい……はい、信じてます……」
「うん……」
しばらく2人でじっと顔を見つめ合った。
言葉はなかった。
しばらくしてふいっと顔をそむけたのはトーヤが先であった。
「それで、ここからが
トーヤは急いで話題を変え、あの日、ダルが洞窟の始まりと思われる地で自分たちを見たことを話した。
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