14 謙遜

 リルは未だに何がどうなっているのか分からないまま、小さなあるじの可愛らしさにただただ涙が出そうになっていた。


「大丈夫でございますよ、みんなシャンタルが大好きで、シャンタルの家族と同じでございます」

「そうなの?」


 少し元気そうな顔になってそう言う。


「はい、この国の民はみんなシャンタルの家族でございます。みんなシャンタルを大好きなのでございますよ」

「そうなの?」

 

 うれしそうに、恥ずかしそうに少し下を向いてもじもじとなさる様子さえ、愛しくてたまらないと思った。


「はい、さようでございます」


 リルの答えにシャンタルは満足をしたようであった。

 そしてシャンタルはリルの話をもっと聞きたいとせがんだ。


「あ、はい、それでですね、兄の結婚するお相手なんですが、兄の幼馴染おさななじみで私もよく知る方だったのです」

「幼馴染?」

「はい、えと、小さな子どもの頃からのお友達を幼馴染と言います」

「そうなの」

「はい。それでですね、この間、兄と一緒に宮に挨拶に来てくださいまして、とてもびっくりいたしました」

「どうしてびっくりしたの?」

「はい、どうしてかと申しますと、小さな頃はあまり仲がよくなくて、顔を合わせると色々と言い合っていた二人だったからです」

「仲がよくなかったのに今はお好きなの?」

「はい、そうなのです」

「そうなの、不思議!」

「はい。ですが、仲がよくないと思っていたのは、実はお互いに相手のことが好きだったからのようです」

「え、どうして?」


 シャンタルが理解できないというように目をパチクリする。


「ええとですね、好きだと思ってもそれを知られるのが恥ずかしくて、それでついつい嫌いな振りをしてしまうことがあるのですよ。兄とお相手もそうだったようです」

「へえ、不思議!」


 シャンタルには初めて見ること聞くことばかりでリルの話に夢中になっているようだった。


「本当にリルのお話は面白くて、それに色々と説明するのが上手だわ」

 

 ミーヤも本当に感心したというように言う。


「そんな、そんなことないわ、大したことではないわ……」


 そう謙遜けんそんしつつもリルはうれしそうだった。


「リルのお話は面白くて、とても上手にお話するのに、どうして違うと言うの?」


 え、今度はそれ、とリルは心の中で困ったと思ったらそれが表情に出ていたようだ。


「ええとですね、リルは謙遜しているのですよ」


 ミーヤが思わず笑いながらそう言った。


「謙遜?」

「はい。ええと、謙遜とはどう説明すればお分かりいただけるのかしら……リル、お願いします」

「え」


 さすがに自分で謙遜してそれを説明するのは少しどうかとも思ったが、リルは考え考え説明をする。


「ええとですね……そうそう、さっき申しました兄とお相手の婚約者、結婚をしようと約束をした方と同じでですね、本当はうれしいなと思っていても、それを正直に言うのが恥ずかしくて、それで大したことはないと言うのが謙遜するということです。って、え、あの、はい……」


 言ってしまってからちょっと恥ずかしそうにする。


「そうなの? それでリルもうれしかったのが恥ずかしくて謙遜したの?」

「あ、はい、そうなります」


 さらに小さくなる。その姿を見てまたミーヤが微笑ましそうに笑った。


「はい、リルは本当にお話上手なのですが、それを自分で自慢するような人ではないので、それで謙遜したのですよ」

「そうなの?」

 

 聞かれてリルが、


「あ、あの、はい……」


 と、さらに下を向いてしまったのでまたミーヤが笑った。


「じゃあリルは誰と結婚するの?」

「え?」


 いきなりそう聞かれてリルが困った顔になる。


「リルも好きな男の人と結婚するの? ミーヤは?」

「え?」


 今度はミーヤが困る。


「みんな結婚するのではないの? シャンタルも誰か男の人と結婚するの? ラーラ様は? マユリアは?」

「あの……」


 2人揃ってどう説明しようかと困る。


「みんながするわけではないのです」

「え、そうなの?」

「はい、する人もしない人もおります」

「え、どうして?」


 さらに困る。


「ええと……」


 リルが困りながらも話し上手とほめられた上は、と考え考え説明をする。


「そうそう、結婚は好きな方1人としかできないのです」

「え、たくさん好きな人がいた時はどうするの?」

「あ、はい、その中で一番好きな方とするものなのです」

「そうなの!」

「はい」


 リルがうなずき、傷を思い出したのか少しだけ固い表情になる。


「好きだと思っても、その方にもっと好きな方がいらっしゃる時にはその方は他の方と結婚なさいますし、色々と難しいものなのです」

「そうなの? 不思議……」


 まだ物事を単純にしか考えられないシャンタルには不思議で仕方がないらしい。


「ええ、そうなのです。お互いに好きだと思っていても、例えばお父様やお母様がもう他の方とお約束なさっていたら約束を守らないといけないこともありますし、好きになった方がもう他の方と結婚なさっていらっしゃったらもうできませんでしょう?」

「うーん……難しいけど、少しだけ分かったかも……」


 リルの説明に少し納得したようで、シャンタルは興味深そうに聞き入っていた。

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