16 神
「いいやつだな、ダルって……うう、うううう……」
ベルが泣きながらそう言った。
「こんなやつのためによ! 本当にいいやつだ」
「おい! こんなやつって誰のことだ!」
「ほんっと、こんなやつに関わったばっかりによお! ダル……」
「だから、こんなや」
「もういいから」
アランがまたいつものやり取りが始まりそうなのを止める。
「そんでその時は海を渡るのを諦めたわけか。俺だったら渡ってると思うが、なんでなんだ?」
「言った通りだよ、すっきりしなかった」
「すっきりしねえって、何が?」
「助け手ってやつかな」
「ああ、そういやそう言ったって言ってたな。託宣がか?」
「そうだ。結局俺もそれに
アランがシャンタルをちらっと見た。シャンタルは知らん顔だ。
「なんだろうなあ、ほんと、すっきりしなかったんだよ」
トーヤが見えない海を見るような目をして言った。
「あの時、このままいっちまっても誰に責められることもない、元々俺はここの人間じゃねえし、なんかに責任もねえ、このまま行きたいと思った、めんどくせえことはもうまっぴらだ、ってな。そりゃ助けてもらった恩はあるかもしんねえし、
トーヤが何かを
「さっきの話じゃねえけど、みんな、自分の役割をちゃんと演じてんだよな。シャンタルはシャンタル、マユリアはマユリア、ミーヤもダルもフェイも、それからルギも。みんな自分の生きる道をちゃんと生きてる。ここで俺だけ逃げ出すのか? そう思ったら悔しかった、
3人は何も言わずに黙って聞いている。
トーヤが続けた。
「もしかしたらそうやって逃げて、気楽にのほほんと生きるのが俺の役割だったのかも知れねえ。こんな
トーヤが一つ息を吸った。
「俺が、他の誰でもねえ、俺が、自分で、自分でそう決めたんだよ。運命なんかの好きにはさせてねえ、そう自分で言えるように自分で選んだ。今はそう言える。たとえそれが誰かさんの手のひらの上、
ここは海ではない、なのに波の音が聞こえるような気がした。闇夜が光るように思えた。
「よう、シャンタル……」
しばらくの後、アランがそう言った。
「なに?」
「トーヤたちがさ、こんななんやかんややってる間、その神様は一体何やってたんだ? どう思ってた? 前とは違って何か思ったりしてたんじゃねえのか?」
「いや、何も」
「こうなってもまだ何もだったのか?」
アランが呆れる。
「うん」
「そんじゃ、トーヤのことはどうだ? 興味持ったんだろ? これはさすがになんか思ったんじゃねえのか?」
「ああ、それは思ってた、あれはなんなんだろうなって」
「そんだけかよ」
「うん」
「まったく神様ってのはよお……」
さすがにアランが呆れ果てたように言う。
「まあでも、そんなもんなのかもな」
「なにがだよ?」
さすがに好奇心を押さえられなくなったようにベルがアランに口をきいた。
「おまえも言ってたじゃねえか、神様がいたら俺らみたいな可愛そうな子供なんかいねえってさ」
「ああ、言った言った」
「いるんだよ神様、な? でもな、こんな感じでなんも考えてねえんだよ。だから可愛そうな子ができるんだよな、俺、よく分かったような気がするわ」
「そ、そうなのか?」
「神様ってなんなんだろうなあ……なあ、なんなんだよ神様って、ようシャンタルよお」
聞かれてシャンタルが首をかしげる。
「うーん、なんだって聞かれてもなあ……困ったなあ……」
少し考えて逆にアランに聞く。
「じゃあさ、人間って何?」
「え?」
思わぬ切り返しにアランがとまどう。
「何って、何って聞かれてもなあ」
「だろ? それと同じだよ、聞かれても困る」
「言われたらそうなのかも知れねえが、なーんか腑に落ちんなあ」
「かもね」
シャンタルが楽しそうに笑う。
「とにかくトーヤも言ってた通り、それぞれに役割があるんだと思う。その中でたまたま私はシャンタルの役割が回ってきて、アランはアラン、ベルはベル、それにトーヤもトーヤの役割を生きてるんだよ。そんなもんなんじゃないのかな」
「ってことは、神様もたまたま神様なのか?」
ベルがとまどったように聞く。
「かもね」
シャンタルがまた楽しそうに笑い、アランとベルが複雑な顔を見合わせた。
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