14 染まらぬ者
「だったらさあ、いっそのこと片っ端からそれらしい名前どんどん付けてってみたらどうだ? もしもドンピシャ当たりがあったら、わざわざ遠い国まで神様抜きに行かなくてもいいってことじゃん、なあそうしてみようよ」
ベルのナイスアイデアに3人が
「そりゃまた
「なんだよ~いい考えだろうが」
涙を流しながら言うトーヤにベルが抗議する。
「わが妹ながら、本当、感心する」
「私もこんなに笑ったの久しぶりかも」
「そんなにおかしいかよ」
アランとシャンタルも笑いながら言うのにベルがぷっとふくれた。
「いやいや、いいと思うぜ、ベルらしい、うん。その調子でこれからも頼むぜ、なあ?」
「もういいよ!」
トーヤの言葉で本格的に機嫌を
「そうすねんなって、お前の考えも悪くはないと思うぜ? ただな、問題はそういうことやった後、こいつがどうなるかだよ。間違ったことやってシャンタルがいきなり死んだりしたらどうする?」
「それはやだ!」
「だろ? だからそういう危ねえ真似はできねえってこった」
「そうか……」
「何しろ相手は神様だからな、なんでも気を付けて行動するに限る」
「分かったよ」
ベルも納得する。
「そんじゃ兄貴が言ったみたいに髪とか染めてみたらどうだ? なんでやんなかったんだよ、トーヤ」
「おまえなあ、俺がそのぐらいのこと考えつかねえとでも思うか? やってみたさ」
「だって今も銀色じゃん」
「やったんだよ。色んな染料使って色々やってみた。だがな、染まらねえんだよ」
「え?」
ベルが、アランが、眉をひそめる。
「それ、どういうことだよ?」
「さあなあ、俺にも分からん。とにかく、こっち戻る道すがら、通る国通る国で色んな染料手に入れてはやってみた。だがだめだったんだよ。全く最初から染まる気配がないものもあれば、今度はうまくいったかと思ったら翌日には抜けちまってたってものもある。そりゃもうありとあらゆるもので試したけどだめだった」
「そりゃあ……」
どう言えばいいのか、アランも言葉をなくす。
「だったら切るってのは? 短く刈り上げちまえば全然印象違うぜ?」
「刈り上げって」
ぷっとシャンタルが笑った。
「笑うなよ~こっちは真面目に言ってんのにさ」
「ごめんごめん」
「それはな、こいつが嫌がったんだよ」
トーヤがシャンタルをくいっと指差す。
「シャンタル、本当なのかよ、なんでだ?」
「なんでって言われても……そうだなあ、切ってはいけないと思ってる」
「だから、それはなんでだよ?」
「説明はできないなあ、だめだと思う」
「なんだよそれー」
シャンタルはうーんと頭を
「本当になんでだろうね? 髪を切ることを考えようとしたら、それはだめだってどこかから言われるんだよね。切ってはいけないって」
「それって、シャンタルの中のシャンタルの言葉か?」
「そうかも知れないし違うかも知れない」
「めんっどうくせえなあ、おまえよお」
ここでの会話を、トーヤがマユリアを「あんた」呼ばわりしシャンタルを「あいつ」呼ばわりした場にいた人々が見たらどうしただろうか? 今度は「こいつ」に「おまえ」ときたものだ。恐らく目の前の出来事に目を回すことだろう。
「ほんっとめんどくせえ、寝てる間にとっとと切ってやってりゃよかったのに」
「おまえなあ、それやるのは色々名前付けまくるってのと変わらねえぞ? 何が起こるか分かんねえのによ」
「そうかあ」
今度のアイデアも
「だったらどうしろってんだよ、なあ」
「だからな、こうしてマントおっかぶせてるんだよ、できるだけ目立たないようにな」
「そのぐらいしかできることねえのかなあ」
「幸いにもこいつはちょこっと魔法が使えるからな、魔法使いにはおかしい衣装でもないだろう」
「そりゃまそうなんだけど、本当めんどくせえなあシャンタル」
「ごめんね」
さっきまではシャンタルの中にいると言う神にびびりまくっていたベルが、もうすっかりそんなことは忘れたようにいつものようになり、平気でシャンタルをいじるようになっている。シャンタルにはそれがうれしかった。
「やっぱりベルはいいよね、いつもそうして私を楽にしてくれる。私はベルが大好きだよ」
シャンタルの素直な言葉にベルがぽっと
「まあでもあれだな、今のでなんとなく分かった気がする」
アランが言う。
「分かったって何がだよ?」
「シャンタルだよ。おかしいだろ、
「そうだな、それは俺も最初から思ってた」
「つまりな、染まらないんだよ、こいつは」
じっとシャンタルを見る。
「おそらく、何者にも染まらない、穢れにもその他の何にもな。何があろうとこいつはこいつだ。だからそのために神様はトーヤにシャンタルを預けたんじゃねえのか? あえて一番穢れのあるだろう場所に置くためにな」
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