5 四人の出会い
アランが刃を手に取るようになった頃、当時はやっと13歳になったばかりの頃、戦いの中でアランはケガをした。
腹部に手傷を負い、深手ではなかったものの出血量が多かったのと、傷が
10歳になったばかりのベルは必死で看病をしたが、できることは少なく、このままでは死を待つのみかとなった時、偶然トーヤとシャンタルと出会った。
「そんで、シャンタルの
ベルはテーブルに手をつくと、ガバっと立ち上がった。
「かっこよかったよな~魔法! こう、ぱあ~っと」
と両手を広げ、さわさわとゆする。
「兄貴の上にさ、こうやって手を動かしたら、苦しそうだった兄貴が段々と楽そうになってったんだよ! びっくりしたー! うれしかったー! 助かったと思ったー!」
にこにことシャンタルを向いて笑った。
「あれはアランにまだ生命力があったからだよ。もっと遅かったり、もっとひどかったら、私にも手の打ちようがなかったさ」
シャンタルもカップを手にして、ゆすりながらそう答えた。
「あの時はすごいなーと思ったけど、そうか、女神様やってたんだもんな、そりゃ不思議な力も持ってるさ」
ベルの言葉にシャンタルは少し眉をひそめる。
「俺はほっとけっ、つーたんだがな」
「トーヤは冷てーなあ」
「正直、きりがないからな、あんな場所では」
「まあ、それも分かるけどさ。でもさあ~、その割には、助けた後はめちゃくちゃ世話やいてくれたぜ~トーヤもさあ? すんげえ心配してくれたように見えてたけどな~っと」
ニヤリとしてベルがそう言うのに、トーヤは一つ舌打ちしただけで何も答えない。
「おれはさ、もう誰もなくしたくないんだよな」
急に真顔になってベルが言った。
「小さかったから、あまりよくは覚えてないんだけどさ、母さんと父さんの顔はちょっとだけ覚えてる。そんでもう一人のスレイ兄さんはもっと覚えてる。でももうみんないないんだよ、会えないんだよ。もうちょっとで兄貴ともそうなるとこを助けてもらった、だからこうして一緒にいられる。でもいなくなるんじゃないかと思ってすげえ怖かった。思い出したくないぐらい怖かった」
思い出したように両手でカップをギュッと握った。
「もうそんなのは嫌なんだ。だから、シャンタルともトーヤともできれば離れたくない。だから、きっとどんな話を聞いても平気だと思う。うん、平気だ。おれ、できることって少ないけど、きっと何か力になれると思うんだ、だから話してくれよ、どんな話でも平気だよ、多分、うん、平気だ」
ベルの言葉が途切れると、部屋には沈黙が落ちた。
しばらくは夜の進む音だけが聞こえるように、静かに闇が揺れていたが、耐えられないようにその静寂を破ったのもまたベルだった。
「おれさあ、おれたちがそうだったから、てっきりシャンタルもトーヤに戦場で拾われたとばっかり思ってたんだよね」
「俺もだ」
アランも
「そもそも海賊ってのはなんだよ? てっきりトーヤはずっと傭兵やって食ってたんだと思ったぜ。大体トーヤは自分のことな~んにも話したことないしよ」
「そうだったか?」
「そうだよ! 今気がついたよ! なーんも知らねえ!」
ベルの言葉にトーヤはむっつりと言葉を返した。
「まあ、俺も元々はおまえらと似たようなもんだな、ガキの頃は戦場稼ぎをやってたこともある」
トーヤは何かを思い返すようにふいっと顔を上げ、何かを探すようにゆっくりと話しだした。
「俺は元々は港町の出でな、母親がその町で娼婦をやってた。親父は分からん。多分客の誰かだろう。その母親も俺が小さい頃に病気で死んじまった。本当ならそのまま野垂れ死にしてもおかしくなかったんだろうが、母親がえらいこと面倒見のいいやつだったみたいでな、妹分だって娼婦たちが面倒を見てくれてなんとか生き残れたんだ」
アランとベル、そしてシャンタルも黙って聞いている。
初めて聞くトーヤの昔の話だった。
「けど、そんな妹分たちだってその日生きるのがやっとな生活だ、十分に助けてもらえるわけでもない。だから物心つく頃には結構なんでもやってたな。いっぱしの悪党気取りだった。スリからかっぱらいから、そりゃもうなんでもやって生きてきた。腕っぷしが強かったのもよかったんだな。そこそこの年になったら今度は傭兵やるようになってた。生き残りさえすりゃ実入りがいいからな。犯罪と違って
「そんで、その頃は英雄様は女たちにモテモテだった、ってことだな?」
「まあな」
ベルの茶々入れにトーヤはすまして答えた。
「そうしてるうちに港町だ、誘われて船にも乗るようになった。最初のうちは船に慣れなくてな、こんなしんどい目をするなら戦場で血まみれでいた方がよかったと思ったこともあったが、そのうち慣れちまえばあっちこっちが見られるのが楽しくなってった」
「それでシャンタリオにも行って、そこでシャンタルに会ったのか?」
「簡単に言っちまえば、まあそんなことだ」
トーヤはシャンタルをちらっと見た。
シャンタルはじっと目を伏せて何も反応しない。
「ある時、『シャンタルの神域』まで行かないかって誘われてな、そんな遠い国と思わねえこともなかったんだが、その頃には生まれた町にも未練もなんもなくなってたんで、まあいいかと行くことにした。今まで行ってた海よりもっともっと遠く、そりゃもう遠かったな。それでも船が進むと、どんどん変わる人間や町には心をわくわくさせるものがあった。海が広くなると、まあ
またトーヤは意味ありげにそう言い、ベルが「やれやれ」と肩をすくめ、目を伏せて首を振った。
「そうして『シャンタルの神域』に入り、その中心の国シャンタリオの王都に差し掛かった頃、大嵐が起きて船が沈んじまったんだ」
「何ぃ!」
「ええっ!」
思わぬ話にアランとベルは声を上げた。
「そしてここからが不思議な話の始まりだ」
思い出すようにさらに顔をあげたトーヤの横顔を、ランプの灯りがゆらゆらと揺らめかせた。
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冒頭部でアランとベルが語っている出会いの物語が拙作の「銀色の魔法使い」になります。
よろしければご一読ください。
当時10歳のベルの視点の物語です。
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