13 海まで
楽しかった一夜が明けた翌日、まだキリエから何の連絡もないところからトーヤは少し遠出をすることにした。
「あの洞窟を海まで行ってみる」
前回はあんなことになりルギと鉢合わせしたところまでになっている。今回は隠れて行く必要はないが、森へ行くところを誰かに不審に思われてあの洞窟を見つけられることだけは避けないといけない。
「問題はリルだけだな。王都を閉鎖されてるのに遠出するってのを変に思われないようにだけはしないとな」
そういうわけで、ダルと2人で王都に遊びに行くということにした。
「これから忙しくなるだろうから、1日だけ息抜きしてきます。なので今日はリルさんも少し休んでくださいね」
ダルがそう言うとまるでマユリアに声をかけられた時のように感激し、
「そんなお優しい言葉をかけていただけるなんて……ダル様こそどうぞお気をつけて」
と、送り出された。
ダルと2人で馬を並べながらトーヤは
「なんだよなあリルのやつ……俺にはなんか警戒したような顔しかしねえくせに、ダルにはあーんな甘ったるい顔しやがってよ、面白くねえなあ」
「俺は困るよ~あんなに……なんて言っていいんだ? なんか分かんねえけど神様みたいに見られてさ」
「そりゃダルのおかげでマユリアに声はかけてもらえる、親しくしてもらえる、神様みたいに見えてもしょうがねえ。それにしてもなあ、少しはこっちにも優しくしてくれたっていいようなもんだ」
「でもトーヤにはミーヤさんが優しくしてくれてるじゃねえか、それと一緒だよ」
「ミーヤはダルにも優しくしてねえか?」
「いや、そりゃまあしてくれてるけど」
「だろ? なんかなーんか、あれだよなあ、あーつまんねー」
馬を降りて前の宮の違う
王都に行くと言っているのに歩いて宮から出るわけにはいかない。とりあえず出る時だけは馬に乗り、宮から出たふりをして隠しておくことにした。
前にミーヤと行った時のようにフェイに会ってから西へ抜け、森に入って洞窟へと向かう。
途中、聖なる森を目にしてダルはちょっと緊張していたが、そこへは入らずに山裾の森に入る。
「さてさて、本当に海まで行けるのかよ、っと……」
トーヤはあの時と同じ型のランプに火をつけ一足早く中に入る。ダルも続いて入る。
2人とも一度は通った道だ、それほど警戒もせずに足を進めることができた。
あの時、ダルにカースから海まで連れて行ってもらった時のように軽口をたたきながら進んでいった。
時々細く隙間から外の明るさが漏れているところが出入り口だ。
湖から入って次がルギが待ち伏せしていたあの出入り口、次がもう少し先のもうすぐ人家が増えてくる手前というやや木が多くて木立に隠れる場所、そして次がカースの出入り口だ。
「本当、よく考えて作ってるよな」
「ほんとだなあ。しかしこれ、全部つなげるとかなりの距離になるけど、どのぐらいの人間がどのぐらいかかって掘ったんだろうなあ」
「なんか聞いたことないのか?」
「いや全然。だからじいちゃんたちが生まれるずっとずっと前かも」
「かもなあ」
シャンタルのような小さな、それも歩き慣れてはいないだろうを子どもを連れて洞窟の中ばかりを歩いて海まで行くとなると、半日ぐらいはかかるのではないかと思われた。
「やっぱり結構遠いよな」
「だよなあ」
「ガキ連れてだと休憩も必要になりそうだよなあ」
「そうだよなあ」
最後の方は洞窟ばかりで飽き飽きしながらもようやく海までたどり着いた。
「本当に来られたな」
「うん」
前回来た時は
「全然違うな、この前と」
「だろ? そんで船はあそこにある」
「この船、ずっとここにあるのか?」
「多分」
「多分か、ない時もあるのか?」
「そうだなあ、俺はそんなによく知らねえんだけど、大体はあるみたいだぜ」
「大体じゃだめだ、確実にないと」
はっきりした日付はまだ分からないが、交代の日は恐らく一月半ぐらい先だ。その頃にはまた大潮になっている可能性が高い。もしも船がなかったらどうしようもない。
「この船、一艘隠しててもかまわねえかな」
「そりゃ、まあ使いみちが使いみちだからな。でも隠すってどこに」
「うーん、どっかないか……」
ダルと2人で海岸をあっちこっち探してみる。
「洞窟から来られてなんとか目立たないところ」
探してみるがこれという場所がない。
「やっぱりここしか無理か~」
トーヤが少し考えてからこう言い出した。
「さすがに3艘あったら1艘は残るよな?」
「大抵1艘で用が足りるからそりゃまあ大丈夫だろうけど、3艘って?」
「買ってくる」
「ええっ!」
「ダルも付き合ってくれ」
「ど、どこ行くんだよ!」
「キノスだよ」
トーヤがダルにニヤリと笑って見せた。
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