7 ミーヤの想い
3日目にダルが来てくれてミーヤはほっとしていた。
正直、トーヤをどう扱っていいのか分からなかった。
自分自身の悲しみはもちろんある。だが、自分には色々とやることがある、それをやるために体を動かしていたら悲しみは薄れる。忙しいということが救いになることもあるからだ。
フェイを部屋から連れ出した日、あの日は一日トーヤのそばで一緒に悲しみを共有できた。
だがそれを毎日続けられる立場に自分はない。
もしもフェイとトーヤと本当の家族ならば、そっと寄り添い、悲しみが薄れるまで手を握っていることもできる。一緒に泣いて時が傷を
だが、トーヤは宮の客人で、自分は単なる世話役である。一日そばでいられただけでも特別なことであると理解していた。
2日目にはあのことを聞くためにキリエに会いに行き、午後からキリエが部屋を訪れた。
そうして1日が過ぎたが、その翌日からはどうしたものかと思ってはため息をついていた。
トーヤにはやるべきことがない。やりたいことがあればやればいいし、なければ何もしなくていい、そういう立場であった。
(自由というのは時に残酷なものだ)
ミーヤはそう思ってまたため息をついていた。
そうしていたらダルが来てくれて心底ほっとしたのだ。
(私はトーヤの何の力にもなれない)
一緒にフェイの家族代わりとなったが、本当の家族ではない。その役目もフェイに会える様になったらもう終わりだ。
ダルはトーヤとは友人だ。フェイとも友人関係とされて3日目にフェイに会いに来た。その関係はこれからもずっと変わることがない。
自分とフェイは正確には友人ではなかった、自分はフェイにとって同僚であり先輩、同じ宮でシャンタルとマユリアに仕える侍女という立場である。いくら姉妹のように親しくなったとしても姉妹ではない。それでもフェイが元気でいたのなら、一生同じ関係を続けていけたかも知れない。
そしてトーヤとは友人であるとも思えなかった。もっと、もっと深く踏み込んでしまった。
「連れて行けたらいいんだがな……」
あの時、あのカースでそう言われた時、答えに詰まった。
一緒に行きたいという気持ちと、できるはずがないという気持ち、その間で揺れた。
もしも自分がトーヤについて行ってしまったら、故郷で1人残る祖父はどう思うだろうか。一番に思ったのはそれだった。
祖父は、ミーヤのこれからのことを思って1人残ることを覚悟してミーヤを送り出してくれた。
「もしだめだったら帰ってきていいんだからな」
そう言った祖父のさびしそうな後ろ姿をミーヤは忘れない。
故郷の神殿で色々とお手伝いをしているうちに神官様から「宮に行ってみないか」と言われ、行けるものなら行きたいと思って王都に出てきたのだ。
「おじいちゃん、沢山の人が集まるらしいし、きっとだめだと思うよ。多分すぐに帰ってくることになるだろうけど、シャンタル宮を見てくるからね」
そう言って故郷を後にして、そのまま帰ることがなかった。
その時の応募の条件は「神殿の手伝いをよくしている10歳未満の女子」であった。
普段から神殿のお手伝いが好きでよくやっていたミーヤは、ゆくゆくは神殿で働きたいと思っていた。神殿には神官様とそのお手伝いをする男女が何人かいる。自分もそうして神殿を尋ねる人のお世話をしたいと思っていたのだ。祖父の仕事にくっついて神殿に行き、その時に「なんてきれいな場所なんだろう」そう思って以来そう考えるようになっていた。
だが、さすがに故郷から遠く離れた王都の、それも
侍女の募集は決まってあるものではない、いつあるか分からない。ある時突然条件のついた募集の
その子たちが「適正を見る」ために一箇所に集められて一緒に生活をし、合わない子から段々と減っていき、最終的に数名が採用されるのだ。
集められた子たちを見るなり「これはもうだめだわ」と思った。ミーヤのように遠い田舎から出てきた
そうして諦めて気楽にいたのがよかったのか、次々ときらびやかな子たちが
「大変な名誉だ、まさかうちの村から侍女が選ばれるなんて」
神官様はそう言って大変喜んだが、ミーヤは戸惑っていた。
まさか本当に採用されるなどとは思わず、もう二度と故郷に帰れないと知って泣きたい気持ちになったのを覚えている。
(だから、あの時、トーヤが自分と同じ気持ちなのだと思ってあの木の話をしたんだった……)
この先、もしもトーヤが行ってしまうとしたら、自分はまたあの時と同じ気持ちを味わうのだろうか、そう思って泣きたくなった。
(フェイ、どうしてあなたはいないのですか?あなたがいてくれたら、まだ少しは我慢できそうなものなのに……)
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