12 いつか来る場所

 翌日、トーヤはミーヤと一緒にフェイに会いに行った。


 前は宮から出ようとするとルギが付いてきたが、そう言えばここ数日は姿を見ていない。


「フェイのことがあったので遠慮しているのかも知れません」

「どうなんだかな……」


 ミーヤはそう言うがトーヤにはそうは思えなかった。

 マユリアの命令通り、どこに行くにもくっついてきていたルギが、何もなくそんなことをするとは考えられない。

 もしも来ないと言うのならば、それはマユリアの命令があったからに違いない。


「マユリアかも知れねえな……」

「え?」


 トーヤがぽつりと言いミーヤが聞き返す。


「いや、マユリアはフェイのことを知ってるから、だから今は付いていくなって言ってるのかも知れない」

「ああ、それならありそうですね」


 ミーヤも納得する。


 2人でフェイの墓所ぼしょまで行く。

 今日も小さな花束を持っていく。

 昨日は神官も一緒だったので2人だけで行くのはこれが初めてだ。


 2人でフェイの場所にまた花を置く。

 今日も青い花が入っている。


 腰を低くして木の札を見る。

 「フェイ」とだけ書かれている。

 フェイの年齢や亡くなった日などは石の墓標ぼひょうきざまれている。


「フェイ……」


 トーヤはそれだけ言うとそっと木の札をでる。


「できるだけ会いにくるからな……」

「はい……」


 そう言うと立ち上がって背を向けた。

 どこかで思い切って立ち上がらないと、いつまでもここから離れられなくなりそうだからだ。


 墓所は広く、ざっと見たところ100以上は木の札が並んでいるのが見える。

 歴代れきだいの侍女たちがここで眠っているのだ。

 もしも、将来ミーヤが人生をここで終えるのなら、その時はここで同じように眠ることになる。


「多分、私もいつかはここに来るのでしょう……」


 トーヤが考えていることが聞こえていたかのようにミーヤが言った。


 トーヤには何も言えなかった。

 そんなことは考えたくはなかったが、ごく自然にミーヤがここで生きるのならいつかはそうなる。


 墓所は増え続けるのではなく、古い場所からまた新しい人が入ってを繰り返していく。

 今はフェイがいる場所も、数十年の後にはまた新しい誰かが入ることになる。

 その頃には多分トーヤもミーヤもすでにこの世にはいないはずだ。

 フェイの前の人がどのような人生を送り、誰が会いに来てくれていたかはもう分からない。それほど前の人だ。


 墓所の前にある石の墓標、そこを見ると眠っている人のよすががかろうじて分かる。

 何百もの名前が彫られてあり、古いものは何百年も前になる。

 古い名前のものはもうどこで眠っているかも分からない。すでに新しい人が入り、木札の名前が変わってしまっているからだ。

 順番に名前をたどって数えていけば分かるのだろうが、すでにそのようにして訪う人もない。

 そうして、木の札よりもずっとずっと長くある石の墓標も、名前がいっぱいになってしまったら新しいものに取り替えられるらしい。


 その古い墓標は今度は墓所の横にずっと並べられていく。

 古い古い墓標は、長い年月風雨ふううけずられ、刻んである文字が薄れて分からなくなっているものもある。

 それほど永々えいえいと命のいとなみが繰り返されている場所なのだ。

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