8 消えた家族
「なあ、そうなんだろ?」
トーヤがミーヤに聞く。
「そうなの?」
シャンタルもミーヤに聞く。
「それは……」
ミーヤが口ごもる。言っていいものかどうか少し迷ったからだ。
「違うの?」
シャンタルにもう一度聞かれ、
「いいえ、違いません」
そう答える。
「マユリアは、ラーラ様はどこにいるの?」
「それはミーヤも知らぬのです」
「どうして?」
「知らぬ方がいいからとキリエ様があえて教えてはくださいませんでした」
ミーヤはシャンタルに向かって話し出す。
「マユリアは、シャンタルがご自分の言葉でお話しになれないのはご自分とラーラ様のせいだとおっしゃって、それでシャンタルからご自分たちを切り離すためにどこかに行かれたのです」
「え?」
「切り離すってどういうことだ?」
「トーヤが言ったシャンタルが話す気がないという言葉、それをお聞きになってもしかしたら、とおっしゃったのです」
「なに?」
「シャンタルが、もしかしたらご自分とラーラ様の体を借りて外を見て、聞いているのではないか、そうお思いになったようです」
「なんだよそりゃ……」
「不思議な話ですが……」
「それで、そうだったってことなんだな?」
「はい」
「そうなのか?」
トーヤがシャンタルに聞く。
「……うん」
少しだけ迷ってからシャンタルが素直に答えた。
トーヤが呆れたようにはあっと息をつく。
「まあな、いまさらどんな不思議なことがあっても驚きゃしねえけどよ、それにしてもそりゃまた……」
「ええ、それでトーヤに」
「あれか、共鳴ってやつだな? 俺がこの間具合が悪くなったやつ」
「ええ」
「あれ、やっぱりこいつか」
「そのようです」
トーヤがシャンタルにちらっと目をやると、
「トーヤが勝手に使うなって怒った」
そう言ったのを聞き、大笑いする。
「おまえ、おまえすげえな……なんだよそりゃ、ほんとに」
シャンタルが不思議そうな顔で聞く。
「ミーヤ、どうしてトーヤは笑ってるの?」
「ええと……それは……どうしてでしょう?」
2人で笑い続けるトーヤに目をやる。
「はあ、おかしい……理屈なんてねえんだよ、たんにおかしいんだ、笑えるんだよ」
そう言うと笑った顔のままシャンタルに向き直る。
「おまえな、そんだけすげえ力持ってるんだ、湖に沈むぐらいどうってこたあない。その上このトーヤ様がついててやるんだ、安心して沈め。どうやっても助けてやるからよ」
「えっ!」
シャンタルがまた怯えたようにミーヤにしがみつく。
「だーいじょうぶだって、自分を信じろ」
そう言って笑う。
「そんなの……」
シャンタルがミーヤの上着をギュッと掴んだ。
「トーヤ、そんなことを言われて分かりましたって沈める人間がいますか?」
ミーヤがまさに正論をぶつけてくる。
「そりゃまそうだな、俺だってそうですかって沈めてくれとは言えねえかな」
そう言ってまた笑う。
「笑い事ではありませんよ」
「いや、すまんすまんそりゃそうだ」
そう言いながらまだ笑ってる。
「そうか、そんじゃどう言えば安心して沈めるのかを考えるか」
「ええっ!」
なんだかもう冗談を言ってるようにしか思えないとシャンタルは思った。
「嘘でしょ?」
「嫌、本気だ」
シャンタルの問いに真面目な顔で答える。
「沈みたくない」
「でもなあ、そうしねえと話が進まねえみたいなんだよな」
「トーヤからマユリアたちに頼んで……」
「それは断る」
ピシャリと言う。
「俺が引き受けた仕事は何回も言うが、沈められたおまえを引き上げて助けて、そして連れて逃げることだ、分かったか?」
「ひどい……」
「ひどくねえだろ、助けるって言ってるんだから」
「でも沈めるって」
「何度も同じこと繰り返すんじゃねえ、そうしねえと進まねえって言ってるだろうが」
「めっ!」という感じで少し上からシャンタルに言う。
シャンタルがまたミーヤにギュッとしがみつく。
それを見てトーヤがため息をついた。
「なあ、ミーヤ、どう言ってやったらこいつ、納得して沈むと思う?」
「無茶苦茶言いますね……」
ミーヤもため息をつく。
「マユリアたちをお止めすることはことはできないのでしょうか……」
「え?」
「無理でしょうか……」
トーヤがふうむと考えて言う。
「ま、どうしても嫌なら断わりゃいいんじゃねえのか?」
「え?」
「どうやっても嫌だって抵抗すりゃ、マユリアたちだって諦めるかもな」
「そうなの?」
シャンタルがおずおずと聞く。
「まあ、俺はやるべきことはもうやったからな。仕事を引き受けるとシャンタルと約束した。契約はもう成立してるんだ。その後でそっちの勝手で仕事がなくなったとしてももう俺の責任じゃねえしな」
「え?」
あっさりとそう言う。
「だからまあ、どうしても嫌だってのならおまえががんばってみりゃいいんじゃねえの?」
「それでいいの?」
「さあな」
シャンタルの問いにさらりと言う。
「俺は仕事するって言ってんのにそれをご
トーヤがニンマリと笑う。
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