7 素直な気持ち
「嫌……」
シャンタルが椅子からはずれて逃れようとする。
「待てって」
その手をトーヤが掴んで放さない。
「嫌、放して!」
トーヤの手を放そうとするがシャンタルの力では放せず、
「ミーヤ、ミーヤ助けて! トーヤの手を放して!」
ミーヤは困ったような顔でじっとして動く気配がない。
「ミーヤもなの? ミーヤもシャンタルを殺すの?」
「だからそれは違うって、ちょっと落ち着け、な?」
「いやっ、放して! いやああああ!」
「落ち着けって」
「シャンタル、一度落ち着いてトーヤの話を聞いてください。それで、どうしてもトーヤの言ってることが無体なこと、ひどいことだと思ったら、どうやってでも私がシャンタルをお逃しいたします」
「おいおい」
「トーヤも手を放してください」
言われてトーヤはシャンタルの手を放す。
シャンタルが急いでミーヤの腕に飛び込んだ。
「シャンタル、少し落ち着いてください」
「ミーヤ、ミーヤ、怖かったの……」
「大丈夫です、ミーヤが付いております」
そう言ってからトーヤを見て、
「少し落ち着かれるまで待ってください」
そう言って頷く。
「分かったよ……」
しばらくミーヤがシャンタルをあやすようにし、ようやくシャンタルが体の力を抜いてきた。
「シャンタル、一度トーヤの話を聞いてください。まったく、乱暴な話し方をするから……」
「また怒られた……」
そう言いながら今度はあまりうれしそうにはない。
「シャンタル、信じてください。私もトーヤもシャンタルの味方です。シャンタルが死ぬようなことはいたしません。信じてください。フェイもそう言っていませんでしたか?」
「フェイ……」
シャンタルは自分の心の中に入ってきたフェイの感情を思い出す。フェイは完全にトーヤとミーヤのことを信じていた。
「でも……」
だが、助けてくれると思っていたトーヤははっきりと「沈め」と自分に言う。
大事な家族と思っていたマユリアとラーラ様が自分を沈めるように、助けてくれると思ったトーヤもまた自分を沈めるのだと思うともうどうしていいのか分からなくなる。
「もう話してもいいか?」
シャンタルを見ながらトーヤが言う。
「構いませんか?」
ミーヤがそう言うと少し考えながらも頷く。
「まずはさっきも言ったが俺もミーヤもおまえの味方だ。おまえが死ぬようなことをされそうになったらどうやってもおまえを守る」
「本当に?」
「約束する」
トーヤがシャンタルの目を見て言う。
「だけどな、それと沈めるってのとはまた別だ」
「別って!」
「まあ聞けって。俺はな、マユリアたちもおまえを死なせたくないって思ってるのを知ってる。ミーヤもそうだろ?」
「ええ、トーヤの言う通りです。マユリアもラーラ様もみんなシャンタルが大事です」
「だがな、そんな大事なおまえをどうやっても沈めるって言うんだよ。マユリアは世界の運命のためだって言うけど、なーんかそれだけじゃねえ気がする」
「それだけじゃないって?」
シャンタルが聞く。
「なんて言うのかな、おまえを助けるために沈めようとしてるような気がするんだ」
「シャンタルを助けるため?」
「そうだ」
「だって沈めたら死ぬでしょ」
「うん、だからどうしても俺に助けてもらいたかった、そのために必死になってたな」
「そうなの?」
「そうだ」
トーヤがシャンタルの目を見てしっかりと言う。
「俺もすげえ腹立った、どうやってもおまえを沈める、運命だって言うあいつらにな。そんでそんなことに巻き込んだおまえにもな。だから託宣に従っておまえが心を開かないなら見捨てる、そう思った」
シャンタルがじっとトーヤの目を見る。嘘はないと思ったようだ。
「すげえ辛かったぞ? おまえ、まるで人形だったしな。こんな風に話ができるなんてとっても思わなかった。俺は残酷なことをしようとしてるんだな、そう思うと苦しかった。だけど今は違うだろ? おまえはそうしてちゃんと自分の口で嫌なことは嫌って言える。だろ?」
「それはそうだけど……」
「さっきも言っただろうが、うまいもん食ったら素直にうまいと思えってな。おまえ、マユリアたちを嫌いか? 正直に言ってみろ」
「それは……」
シャンタルが口ごもる。
シャンタルは今でもマユリアたちを好きだと大事だと思っている。ただ、裏切られたという気持ちは消えない。
「まあな、今はなんか騙されたようなそんな気がしてるだろうな。俺もそういう感じで頭にきたからな」
さらっとシャンタルの気持ちを言い当てる。
「おまえのためだの助けてほしいだのと言いながら沈めるときたもんだ。そりゃ腹立った、騙された、裏切られた、そう思ったな。おまえも同じ気持ちだろ?」
その通りだった。
「だから、そんならおまえらでどうするか決めろ、そう思って条件をつけたんだ。おまえが心を開かない限り助けないってな。そしたらどうだ、今どこにいる、マユリアは、ラーラ様は」
「分からない……」
シャンタルも知りたかったことだ。
「俺も知らん。だがな、推測はつく。多分、あいつらはおまえのために姿を消した、おまえが助かるためにどこかへ行ったんだ。自分らが苦しむためにな」
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