12 神様の交代

「なんでこっち来る時に抜いとかなかったんだよ…………」


 ベルが固まったまま言う。


「抜きたかったんだけどなあ」

「だよねえ」

「2人してトゲかなんかみたいに言ってんじゃねえよ!!」


 ベルは半泣きである。


「そんな怖がってやるなよな。それにおまえ、シャンタルは最初に会った時から怖くなかったって言ってなかったか?」

「言ったけど、それは違う意味で怖くなかったんだよお」

「じゃあどういう意味で怖いんだよ?」

「それは、おれ、おれ、そういうの苦手なんだよー」

「そういうのってなんだよ」

「そういうのは、そういうのは、そういうのだよ!」


 もうトーヤは完全に面白がっており、怖がられてるはずのシャンタルも、笑いをこらえるのに一生懸命だった。


「お互いにそのぐらいにしてやれよな」


 最初はベルと同じように驚いていたアランだが、一足早く自分を取り戻した。


「おまえな、トーヤが言う通りそんなに怖がってやったらシャンタルがかわいそうだろうがよ。今まで全然怖くなかったんだろうが」

「それはそうなんだけど……」

「だったらな、これからも変わんねえだろ? シャンタルはシャンタルだ、違うか?」

「それはそうなんだけど……」

「だったらもうそんなびびるな、な?」

「う、う……」

「そっちもそっちだぜ、自分らのことだろうが、大概たいがいにしろよな?」


 半泣きのベルをとりあえずなだめると、くるりと振り返ってトーヤとシャンタルにもピシャリと言う。


「すんません」

「ごめんなさい」


 叱られてこちらも背筋を伸ばす。


 アランはいつも冷静だ。いつもは最年長のトーヤが全員を仕切っているが、状況によっては熱くなることもある。そういう時は冷静なアランが一言ビシッと言うことで場が収まることも多い。


 経験でも実力でも人を引っ張る力でも断トツで文句なしのリーダーのトーヤ。


 静かにそばにいてサポートするシャンタル。


 にぎやかし屋で直感的に判断するベル。


 そして、全員を冷静に見て、時に的確に手綱たづなを引き締めるアラン。


 この組み合わせで、アランが言った通り、いいチームとしてこれまでうまくやってこられていたのだ。


「相変わらずアラン隊長はきびしいなあ」


 シャンタルがそう言いながらクスクス笑った。


「そんでだな、なんで抜けなかったんだよ、そのへん教えろ」

「了解だ」


 トーヤが大人しく従い、話の流れが戻った。


「シャンタルの交代ってのがある。その手順を踏んでないからだよ」

「手順?」

「まずは次代様じだいさまの御誕生だな」

「それがないと話になんねえよな、何しろ新しい入れ物がないと交代はできないだろうし」

「そういうことだ」


 トーヤが続ける。


「次代様の誕生についてはまた後でな。ちょっと色々言うこともあるんで、今は簡単に手順だけ、俺が見たことだけを説明する」

「分かった」

「まず次代様が生まれる。そうするとそのことが発表されて交代の日が決められる。交代の日に当代シャンタルが次代シャンタルに自分の中のシャンタルを移し、一時的にシャンタルが2人になる」

「一時的に?」

「そうだ、一日だけな」


 トーヤが軽く頷く。


「その一日が過ぎてその翌日、今度はマユリアの交代が行われる。前日シャンタルがやったように、今度はマユリアが自分の中のマユリアを昨日までのシャンタルに移すんだ。それでやっとシャンタルの交代が完了だ」

「押し出し方式かよ!」


 ベルが言って、シャンタルがプッと吹き出した。


「確かにそうだね言われてみれば。今までそんなこと考えてみたことなかった。やっぱりベルは楽しいなあ」

「楽しくねえよ!」


 まだ怖いのが残っているのか、ベルがふてくされた風に言う。


「まあ、そうして交代が行われる」

「ってことは、そのシャンタルが一時的に2人になった隙に、国から連れ出したってことになるな」

「そういうことだ」

「マユリアの交代ってのがなかった理由は、うちのシャンタルが男だったからか?」

「大きな理由はそれだな、多分」

「多分?」

「多分としか言えんな」

「そうか」


 アランがまたうーむと考え込む。


「そんで、マユリアはどうやって人間に戻るんだ? 今度は押し出すもんがねえだろ? 誰か人間を入れるってわけにはいかんし」

「名前だ」

「名前?」

「そうだ、自分の名前を知って人間に戻る。その名前をな『真名まな』と呼ぶ」

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