15 誰のために
「そうですか、ようやく……」
「は……」
ここはマユリアの客室、トーヤがフェイを助けてほしいと駆け込んだあの部屋だ。
マユリアの足元にはしばらく姿を見せなかったルギが
「ご苦労さまでした。そして、申し訳ないけれど、おまえはもう少し控えていてください。今度はもう一つ下で」
「は……」
「お下がりなさい」
「失礼いたします」
ルギは頭を下げると立ち上がって退室した。
トーヤが考えた通りルギはマユリアの
洞窟の入り口に行ってみた翌日、トーヤがカースへ行くことにしたら、その時にはルギはふいっとどこからともなく現れ、何事もなかったかのように供の役についた。
「なんだ、あんたしばらく見ねえからくたばっちまったのかと思ったぜ」
トーヤが皮肉っぽくそう言うと、ルギは、
「期待に添えずに申し訳ないな」
と、相手もしないという感じでそう答えたもので、トーヤは聞えよがしに
そうして3人でカースに向かう、3頭の馬に3人で。
これまでは相乗り用の
カースに着くと、すでにダルからフェイのこと、トーヤのことを聞いた漁師たち、その家族たちが暖かくトーヤたちを出迎えてくれた。中には涙ぐんでいた者、隠すこともなく泣いていた者もいた。それだけこの村でもフェイは親しく受け入れられていたのだ。
「ほら、トーヤ、あんたのカップだよ」
ダルの母親のナスタが取っ手に青いリボンを結んだカップを渡してくれた。
「おふくろさん、ありがとうな。これからもこれ、預かっててくれるかな?」
「言われるまでもないよ。大事にしてあんたが来たらいつでも使えるようにしておくよ」
「頼むよ」
そう言っていつものカップを受け取った。
その夜はいつものようであってそうではないような、フェイの
明るく騒ぎながらも、ふと誰もがついフェイが座っていた席に目をやってしまう。
いつもよりやや早くお開きとなり、トーヤはいつものようにダルの部屋、ミーヤはナスタの部屋、そしてルギもダルの兄たちの部屋へと引き取った。
「おつかれ」
「おつかれ」
トーヤとダルは部屋に持ち込んだカップをまた当て合って口をつける。
もうすっかり慣れた部屋。トーヤの
「あのな……」
トーヤはミーヤと相談して、ダルがたどり着いたあの場所のことを話すと決めていた。
「な、そんな、あそこが……」
ダルは言葉もないぐらい驚いていた。
「なんであそこにいたか、はちょっと言えねえんだが、場所だけは言っておこうと思ってな」
「うん、話せることだけ話してくれてうれしいよ。でもなあ、まさかそんなところに……」
「そういうことなんだよ、それでな、もうちょっと詳しくどういう感じだったか聞きたくてな」
「って言ってもなあ、なんも変わんねえよ、海に続く洞窟と全く一緒だった」
「そうなのか」
「なんにしてもシャンタル宮から海まで続く道ってことだよな?」
「だな」
「ってことは、シャンタル宮から海に逃げる道ってことになるのか?」
「逃げるためかどうかは分かんねえが、まあそういうことだな」
「前にトーヤが話してたアルディナ王都まで洞窟ぶち抜いたらどうだって話と似てるよな」
「ああ、あれか」
トーヤが笑った。
「あれは、今だから言うけどよ、ダルから逃げ道のことが聞きたくて
「そうなのかよ」
そう言ってダルも笑ったが、
「でもな、案外それ、当たってるかもな」
真顔になってそう言う。
「なんか、俺も今思いついただけなんだけど、宮から誰かを逃がすために作られた道、みたいな気がする」
「……なのかもな……」
「え?」
「いや、ダルが言ったそれだよ。宮から誰かを逃がす道……」
そうだ、それまでもそうだった。
「託宣」がある。
ミーヤの故郷の木の話も、海岸に打ち上げられたトーヤも、みんな「何かのため」に準備されたものだった。
「だとしたら、あの洞窟も、いつか誰かが何かのため、誰かのために準備しておいたものかも知れねえ……だとしたら、一体誰のためなんだ?」
そうしてダルと色々話をしてみたものの、やはり答えの出る問題ではない。
「まあ、その時がくりゃ分かるんだろう。
何にしてもこれで逃げ道は確保できた。いざとなればあそこから人知れず海まで出て(出られるなら途中は馬で走りたいものだが)そこから小船で向こうの町まで行く、そしてそこからはどうなるかは分からないがひたすら逃げるしかない。
とにかく王都から逃げ出して人の間に混じりさえすればトーヤの外見はシャンタリオ人と変わるところがない、逃げるのに困ることもないだろう。
そのための
「あとはまあ、ぼちぼちダルの訓練しながらなんかが起こるのを待つしかねえな」
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