22 人となる
「この
「そうなのですね……」
シャンタルは少しさびしそうに
「お戻りになった後、マユリアはどうなさるのですか?」
「マユリアは望まれて後宮にお入りになることがお決まりです」
「後宮?」
色々なことを知るシャンタルだが後宮は今までの話題に出てはいなかったようだ。
「マユリアからお聞きには?」
「いえ、初めて聞きました。後宮とは?」
一体どのようにしてシャンタルに伝える情報、伝えない情報を選んでいるのかは分からないが、シャンタル本人の運命と同じくマユリアの運命についても伝えてはいないらしい。
「後宮とは、王のご家族のいらっしゃる宮殿でございますよ」
「王のご家族? マユリアはそこで王の侍女になられるの?」
ラーラ様がそうであったように、人の世に戻ったらそちらでお務めになると思ったようだ。
「いえ……そうではなく、王の
「側室?」
「はい、王の……ご
「ご寵愛?」
まだ理解できないようだ。
「あの」ミーヤも横から声をかける「王の奥様のお一人になられる、ということでございます」
「奥様? ということはご結婚なさるということ?」
リルの会話の中で「女性は結婚すると妻となり奥様と呼ばれることもある」と出てきていたのでこの単語はご存知だったようだ。
「はい、そういうことでございます」
「でも……」
シャンタルは聞いていた話と違うという顔になり、困ったようにして右手を右頬に当てた。
「でも結婚は一番好きな方1人としかできないのでは? 奥様のお一人とはどういう意味です?」
「王にはすでに王妃様、正式な奥様がいらっしゃいます」
「正式な? ではマユリアは正式ではないの?」
「そうとも申せます……」
ますます理解できないという顔になる。
「分かりません……正式ではないというのは?」
「はい、そのような奥様のことを側室と呼ぶのです」
「よく分かりません……結婚とは1人の人とだけするものと聞きました。なぜ王だけ何人もの方とご結婚できるのですか?」
「それは、王はこの国でマユリアと同じぐらいお偉いからです。シャンタルの次にお偉い尊い方だからです」
「偉いとどうして何人もとご結婚できるのですか?」
「王の血を残すためです」
「王の血?」
「はい。もしも王妃様との間にお世継ぎのお子様がお生まれにならなかったら王の
間違ってはいないと思う。ミーヤにはこれが精一杯であった。権力を持つ男性が複数の魅力のある女性を手にしたいと思う、そのような欲望まで説明するのは無理だ。
「王の血を継ぐお世継ぎ? マユリアはお世継ぎの親御様になられるの?」
「いえ……お世継ぎはすでに世継ぎの王子様がいらっしゃいます」
「ではなぜ……」
シャンタルには理解ができない様子であった。
「マユリアのあまりのお美しさに人の世に戻られた後も宮殿に、と望まれてのことなのです」
「そうなのですか……それならば分からないこともありませんが……」
キリエがそう言うのを聞き、なんとか納得しようとしているようだった。
「ラーラ様は? そのまま宮にお残りになるのですか? それともラーラ様も後宮とやらへ行かれるのですか?」
マユリアのこの後のことはあまり理解できてはいないが、ラーラ様まで自分の元から離れていかれるのかと不安そうに聞いてきた。
「いえ、それはございません。ラーラ様はすでにこの宮に生涯を捧げるとの誓いを立てていらっしゃいます。この後も命ある限り侍女としてシャンタルにお仕えになられます」
「そう、よかった」
ホッとしたように言う。
「そのように、次代様として御誕生になった後、シャンタルになられ、マユリアにおなりになり、真名をお受け取りになって人に戻られる、これが代々シャンタルの
「分かりました」
そう言ってから疑問を顔に浮かべる。
「ですが、わたくしは違う、と申しましたよね? マユリアにはならない、『黒のシャンタル』だから、そう聞きました。千年前の託宣にある、と。わたくしは次代様に内なるシャンタルをお譲りした後どのようなお役目があるのですか? そのお役目を全うした後に人に戻るのですか? 教えてください」
キリエはドキリとした。
シャンタルのこの物の言いよう、それはまさにマユリアのそれである。気品があり、目を
どうしてこの方が男性なのだろう。どうしてそのまま代々のシャンタルと同じようにマユリアになり人に戻るという運命にお生まれにならなかったのだろう。さぞや素晴らしいマユリアにおなりだろうに。キリエはこの先に伝えなければならない「彼」の運命を思うと心がつぶれそうであった。
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