2 待ち伏せ
「あんた……」
ルギであった。
細い光、そこから見える外の風景から、今は以前ダルが教えてくれた入り口だと分かる。
その
「もう少し早く来るかと思っていたんだが、案外のんびりしてるんだな」
皮肉っぽくそう言う。
「なんでこんなとこに……」
「決まっている」
ずいと一歩踏み出したルギの顔がさらにはっきりと見える。
「ここで待っていた」
「待ってたって、なんでここを知ってんだ……」
この場所を知る者は限られている。少なくともトーヤはそう聞いていた。
「不思議か?」
「ああ……」
「聞いてみれば不思議でもなんでもないことだ。俺はカースの出身だからな」
「!」
トーヤは声もなく驚いた。
「知らなかっただろうな。もうずっと前に村を出されたからな」
「村を出された?」
どこかで聞いたことのあるようなその話……
「
「知っているのか?」
「ああ……」
「そうか、だったら話は早い。そういうことだ、ここを知っていても不思議でもなんでもない」
「そうだな……」
ざりっ
トーヤが足場を固めた。
「やめておけ、無駄なことだ。腕が違う、その上そちらは武器も持ってないだろう」
「どうだかな、やってみなくちゃ分からんだろ?」
「やらなくても分かる」
「うぬぼれてるよなあ」
ルギは何も答えずに皮肉そうに笑った。
「とりあえず、ここから出るのは諦めて戻ってもらおうか」
「どこへだ?」
「宮へ」
「断ったら?」
「断っても構わんが、そうなった場合、大事な仲間が傷つくことになるかも知れんな」
大事な仲間、誰のことだ?
ミーヤか、それともダルか?
トーヤの心を読んだようにルギが言う。
「おそらく両方、そしてその関係者もな」
二人と、それから暖かくトーヤを迎えてくれたカースの人々も入っているのだろう。
「分かったらそのまま振り返って真っ直ぐ戻れ」
「分かったよ……」
大人しく振り返り、ランプをかざしながら来た方へ戻る。
「黙って歩いているのもなんだな、知りたい事を教えてやろうか」
「なんだよ」
「まずは忌むべき者だ」
「それならダルに聞いて知ってる。最後の生き残りだろう?」
「まあそうだな」
「あんたがそれだってのは知らなかったが、カースの人は知ってたのか?」
「知っていた者と知らない者がいる。村長夫婦とその息子夫婦は分かっていたな。もしかしたら孫たちも気がついていたかも知れん」
「ダルもか」
「いや、ダルは知らん、まだ小さかったからな。上の二人はなんとなく気づいていたかも知れん」
「そうか……」
ダルは知らなかったと聞いてほっとする。
「だからダルに
「そんなこと思ってねえよ、あいつはそんなことできるようなやつじゃねえ」
「人を信じない
また皮肉そうに笑う。
「ほっとけ。でもまあなんとなく分かった気がする。だからあんたを兄貴さんたちの部屋に入れたのか」
「なんとなくは覚えていたかも知れんな。そうだとしても、特に昔話を懐かしむほどの仲でもなかったのでそういう話はしていないが」
「そうかよ」
「十二年前だ」
ルギが昔の話を始めた。
「俺の祖父、父親、それからダルと同じく兄二人、それから一緒に暮らしていた父親の下の弟の五人が一度に海で亡くなった。漁に出るようになったばかりの俺だけが、その日熱を出して家で寝ていて助かった」
「そうか」
「それからすぐに村を出ていけということになった。
「そんな村には見えないがなあ」
「悪く取るな、好意からだ。一人残った俺を助けるために早く出ていかせたかったわけだな。まあ次の忌むべき者が出るのを恐れたのも本当だろうが」
「それで?」
「村から離れた王都の近く、カトッティのあたりに小さい家を用意してくれてな、とりあえず落ち着くまで生活できるようにしてくれた」
「やっぱいい村だな」
「どうかな。一刻も早く村から離したかったからだろう」
「どっちなんだよ、悪く言いたいのか良く言いたいのか」
「両方だ」
またルギが笑う。
「あんた、今日よく笑うな……」
「そうか、それは
「何が愉快なんだよ」
「今の状況がだ」
「そうかよ、そりゃおめでとう」
「そうして母親と二人でその家に引っ越したんだが、母親はそのままでな、おかしいまま元に戻らなかった」
「そうか……」
「そうして間もなく、そのまま寝付いて亡くなってしまった」
「何歳だったって?」
「11歳、もうすぐ12になる頃のことか」
「俺より遅いな、俺は4歳でたった一人の親だった母親を亡くした。そういやミーヤも
「なんだ、不幸自慢か」
また笑う。
「まあそんなことはどうでもいい。一人になった俺は
「戻ってどうするつもりだったんだ?」
「なんでもいい、戻って俺が死んでまた忌むべき者が出ればいい、そう思った」
「ひでえな。でもまあ、分からんでもない。俺もそうしてたかも知れんな」
「分かってくれてありがとう」
カツン、カツン。
二人の足音だけが
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