11 酔い醒まし

 ミーヤとフェイが「もう大丈夫だ」と言うトーヤをダルに任せて部屋を出た。広間に集まっていた人たちにももう落ち着いたと説明して詫びを言う。


「いやあ、ほんっとに弱かったんだなあ」

「俺、冗談でトーヤのカップに酒入れてやろうかなとか思ったことあったんだけど、やめてよかったよ」

「おまえ何考えてんだ」

「まさかあそこまで弱いとは思わなかったからさ」

「本当だよなあ、情けねえなあトーヤ」

 

 村人たちもホッとして笑いながら軽口を叩くとそれぞれが自分の家に戻って行った。


「さあフェイ、後はダルさんに任せて私たちも休ませてもらいましょう」

「あの、本当に大丈夫でしょうか……」

「大丈夫ですよ、そうおっしゃっていたでしょう?」


 ミーヤが優しくほほえむと、フェイもやっとうなずいて用意してもらった寝室に下がり、広間にいたルギも前のようにダルの兄たちの部屋に下がった。


 深夜、家中が寝静まった頃、


「おい、おい、ダル、おいってばよ、起きろよ」


 揺り動かされてダルが目を覚ます。


「ん、ん……あ、なんだ、トーヤどうした? 気分でも悪いか?」

 

 目を覚ました途端にトーヤの体を心配する。


「いや、もう大丈夫だ。迷惑かけたな」

「そうか、落ち着いたならよかった。そんで、どうしたんだ?」

「今から例の抜け道に行きたい」

「え、今から!?」


 ダルは驚いて一気に目が覚めた。


「しっ、大きな声出すなって。ルギのやつに気がつかれたくねえんだよ」

「あ、ああ、そうか。だけど、大丈夫なのか?」

「ああ、もうほとんど酒は抜けた」

「本当に弱いんだなあ」

「そうなんだよなあ、情けないがいっつもあんな感じになる。長らく飲んでなかったから久しぶりにしんどかったな」

「そうか、悪かったなあ」


 またダルがしおしおとなる。


「だから、ダルのせいじゃねえって、俺がうっかりしてたんだよ」

「今度から間違えないようにトーヤのカップはなんか考えとかねえとな」

「そうしてもらえると助かるな。で、どうなんだ、行けるか?」

「いや、そりゃ、トーヤさえ大丈夫なら行けるけどよ。本当に大丈夫か?」

酔い醒ましよいざましにちょっと外歩きたい気分なんだよ。そのついでにちょろっとな、いいだろ?」

「そうか、そんじゃ行ってもいいけど」

「こっそりな? 見つかってルギに付いてこられるのだけは勘弁かんべんしてほしいからな」

「そうだな」


 ダルが小さく笑う。


 2人してそっと抜け出した。


「子供の頃、よく兄貴たちと抜け出して遊んでたからな、どこをどう通れば見つからないかよく知ってる」


 村からはずれたところまで来てダルがそう言って笑った。


 洞窟への入り口はマユリアの海と墓地の間ぐらいにあると言う。

 馬だとあっという間だが、歩くと少しばかり時間がかかった。

 だが、いざ逃げるとなった時に馬で来られる保証もない。そもそも馬に乗って入れる大きさの洞窟でもないらしいし、歩いてどのぐらいの距離か時間かの参考にもなるだろう。歩きがちょうどいい。


 しばらく歩くとシャンタル宮から続く山に突き当たった。

 今日、来る途中にあったのと同じように、やはり藪に誰かが通ったようなよく見ると分かるぐらいの切れ目があった。そこを分け入ると岩を偽装ぎそうしたような隠し扉がある。


「なんか本格的だな。もっと自然な洞窟かと思ってたが」

「そうなんだよ。いつからあるのか分からないけど、ずっと昔からあるらしいよ」

「そうなのか。言ってたように王様の逃げ道なのかも知れねえな」

「かもね。だからもしかしたら王宮とかにもつながってるのかもって話もあるぜ」

「そりゃすげえな」

「でもそっちまでは行かないけどね、俺らが使うのは海に行く時と、今日見せたあそこに出るぐらいまでかな」


 そう言いながら偽装扉ぎそうとびらをギイっと音を立てて開けた。鍵はかかってないらしい。

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