19 面会
夕刻近くにミーヤに起こされてトーヤが目を覚ます。
「顔だけ洗ってきてくださいな」
タオルを渡されて洗面を済ませる。
さっと身支度を整えられ、キリエの執務室へと向かった。
昨日一日のことを手短にまとめて話し、資金が減ったことも言う。
「分かりました、準備しておきます」
「よろしくな」
「ミーヤ、少し部屋を出てください」
「はい、分かりました」
ミーヤが跪いて頭を下げてから退室する。
トーヤには何の話かもう分かっていた。
「キノスまで行ってきたのですね」
「ああ、さっきの話の通りだ」
「では今夜ラーラ様がお会いくださいます」
「ちょ、待てよ、またあれか、時がってやつか?」
「ええ、そうです。あなたがキノスまで行ったらお会いになるとのことでした。マユリアもご存知です」
「またかよ……本当に気色悪いな……」
毎度のことながら、自分で一生懸命考えて動いたことが、相変わらず託宣とやらのままに動かされているのかと思うと何かに負けたような気がする。
「今夜の日付が変わる頃、私がラーラ様をマユリアの客室までお連れします。1人で来られますよね」
「ああ、場所は分かる」
「ではその頃に」
「このことはミーヤたちには?」
「ミーヤには構わないでしょう。他のものたちにはお会いしてからのことということで」
「分かった。じゃあ日付が変わる頃に」
約束をして部屋を出る。
部屋を出ると外でミーヤが待っていた。
「とりあえず話は部屋に戻ってからだ」
部屋に戻り説明するとミーヤがひどく驚いていた。
「まさかラーラ様にお会いになれるなんて……」
「あんたは会ったことあるのか?」
「いえ、遠くからならお見かけしたことはありますが、お顔までは分からないほどの距離でした」
「ラーラ様ってのはどんな方だ?」
「お優しい方だと伺ってます。シャンタルのお母様のような方だと」
「そうか」
シャンタル、マユリア、そしてそのラーラ様の3人が母子のように仲
「シャンタルを連れ出していただけるのでしょうか」
「どうもそれは無理っぽいが、まあとりあえず会ってみるよ」
「はい」
「どういう話になるか分かんねえし、ダルにはまだ言わずにおく」
「はい」
「ルギは自分が言いだしたことだし、動きがありゃ気づくだろうが、まあ必要になるまではいいだろう」
「はい」
そうして時間になり、トーヤは1人で部屋から出てマユリアの客室へと向かった。
「気をつけてくださいね」
昼間、いつものようにミーヤが言ってくれた一言を思い浮かべながら廊下を進む。
部屋の前に着き、扉をそっと押すと音もなく開いた。
静かに中に入り後ろを向いて音もなく扉を閉める。
振り向くとそこにはキリエがいた。
「少しお待ちなさい」
そう言って奥にある扉に戻り、中に入ってもう一度出てくると女性を1人伴っていた。
服装は侍女の服装である。色は薄い落ち着いた紫。見るだけでは普通の侍女の1人に見える。
だが、
「ラーラ様です。では、私は一度戻っております、お戻りの時には声をおかけください」
キリエの言葉遣いから普通の侍女ではないことも分かる。
トーヤは正直に言ってびっくりした。
何しろごくごく普通の女性なのだ。マユリアのとびぬけての美貌、シャンタルのまた違うタイプの神秘的な美貌、その2人のシャンタルと元シャンタルを知っているだけに、この方は一度は神であったとは信じられぬほど普通の女性であった。
もしも、普通の服を着せて町中に連れ出したら、誰もそんな特別な方だとは思うまい。そのへんの住人の一人だと見過ごしてしまうだろう。容貌だけではなく、なにか特別な、マユリアとシャンタルが
「驚きましたか?」
その方、ラーラ様はトーヤが考えていることが分かるかのように、優しそうに笑ってそう言った。
「いや、いやいや、あの、すみません」
トーヤが思わず頭を下げて謝り、かえって失礼だったかと考えているとまたその方は微笑んだ。
おそらくこれが母のような、そんな微笑みであった。
「どうぞ、おかけなさい」
ラーラ様は自分も椅子に腰掛けるとトーヤにもすすめた。
「はい、失礼します」
トーヤは丁寧にそう言うと頭を下げてから向かいの席に腰をかけた。
「助け手トーヤ……」
「は?」
その方はそう言うとじっとトーヤを見つめた。
「あの……」
「いえ、やっとお会いできたと思って……」
見た目と空気は普通ではあるが、その気品はやはり二十年に渡って神と崇められ、その後は侍女と言ってもミーヤのような侍女ではなく、おそらくは「もう一人のマユリア」との扱いであったのだろう存在の持つものであった。
「時間ももったいないので
「はい、存じております」
「じゃあ、それでシャンタルを助けようと思って宮に侍女として残ったんじゃないんですか?」
「それは……」
ラーラ様は少し言いよどみ、
「違うと思います……」
小さいが弱くはない言葉でそう答えた。
キリエが言っていた通り「シャンタルを助けるために残った」ことを否定する。
では一体何のために残ったと言うのだろうか。
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