11 架け橋
「なんだよ」
リル家から出ながらトーヤがダルに言う。なんかダルの目つきが変なのだ。
「いや、なんか、あれで俺もやられたんだよなあ、と思ってな……」
「何がだ?」
「トーヤ、立派な詐欺師になれそうだなーって」
「ああ」
トーヤが意味が分かって笑ってこう言った。
「隊長に負けてられねえと思ったからな」
「なんのことだよ?」
トーヤが答えずにははははは、と笑う。
「なんであんな話になったんだ? 普通に乗せてくれって言えばよかったんじゃねえのかよ?」
「そりゃお願いして乗せてもらうのとあっちから頼んで乗ってやるのは違うだろ?」
「そんな理由!」
「そんだけじゃないぜ」
トーヤが真面目な顔になる。
「この先、本当に定期便ができた方がいいと思ったからだ」
「あれ、本気だったのか!」
「当然だ」
トーヤの目は前を見ている。
「そのぐらいになってもらわねえと俺も戻ってきにくいじゃねえか」
「え?」
「だから、次に戻ってくる時にはもうちょい旅が楽になってほしいからな。それにそうすりゃダルもラクダに乗りにいけるだろ?」
「ラクダって……」
「せっかく俺がここにいるんだ、なんか一つこっちの世界の人に置き土産でもしてから行く方が戻ってくる時にもでっかい顔で戻れるってもんだ」
「そこまで考えてたのか」
ダルは、この友人のことを心底から見直した。
すごいやつだ、と憧れもし、色々と騙されたり利用されたことからどう受け止めればいいか悩んだこともあった。だが、今はやっぱりこいつと友達でよかったと思っている。
「へへ……」
「なんだよ」
「いや、俺も見る目あるなと思って」
「なんだそりゃ」
「いや、俺もがんばるよ。月虹兵をちゃんとした形にして、この国のみんなの架け橋になって、その次はそっちの、アルディナとの架け橋になって、そんでいつかは次の代へと受け継いでいけるよう、そうなるようにがんばる」
「おう、いい心がけだ」
トーヤが満面の笑みでダルを見た。
「俺、トーヤにも負けねえからな」
「俺だってな」
「そんじゃまずは宮まで競争だな、そら!」
「おい、ずるいぞ!」
そう言って駆け出したダルをトーヤが追いかける。
いつもならトーヤを追いかけていたダルが、初めて自分が先に駆け出した瞬間だった。
宮に帰ってすぐにルギのところに行ってみたら今日は執務室にいなかった。
「あれ、本当に仕事してるのか?」
そうつぶやいて自室に戻ると逆にルギが来て待っていた。
「あれ、どしたの隊長」
「その呼び方は……」
はぁ、と一つため息をつき、
「もういい、好きに呼べ、疲れた……」
そう言うと手形を2枚テーブルの上に置いた。
「お、わざわざ持ってきてくれたのか、ありがとうな」
「おまえのためではない、と言っても通じる相手ではなかったな……」
「そうそう、人間、諦めが大事よん、っと……」
そう言いながら手形を改める。
表にはオーサ商会から本日付けで「以下の者の身分を保証する」との一文とシャンタルの名前らしき印字。もちろん偽名だ。そしてもう一枚には同じ
裏を向けると宮ではなくルギの身分とオーサ商会を保証するとの一文。
「へえ、こりゃいいや。こんだけ厳重に保証してもらえりゃあっちこっちで使えるな」
「おい、妙なことに使うなよ」
「わあってるわあってる、ありがとな」
テーブルの上に手形を置く。
「ついでにな、もう一つだけちょっと聞きたいことがある」
「なんだ、まだあるのか、もうそれで終わりではないのか」
「前のことなんだけどよ、ダルの訓練しててシャンタルが来たことがあったろ?」
「ああ、何回か来られたな、それがどうした」
「初めて来た時にな、俺が具合悪くなったの覚えてるか?」
「もちろんだ、あれは見ものだったからな」
そう言って皮肉っぽく片頬を歪める。いつものルギだ。
「そうか、ならいい。あの時、あんたの目には何が見えた?」
ルギが左手の親指と人差指であごを掴んで思い出すようにする。親指はまだ貼られている布に少しかかっているが痛みはなさそうだ。
「俺はほぼ真横からおまえをずっと見ていたが、マユリアと話をしていて前を向いた途端に動かなくなった」
「やっぱりか。そんで?」
「何があったのかと思っていたら、いきなりガタッと力が抜けたようになって剣で体を支えるようになり、肩で息をしてたな」
「それだけか……どう思った」
「さあ?」
「さあ?」
「ああ、俺は見ているだけが任務だからな、特にどうとも思わん」
「さいですか……」
やはりルギはミーヤたちとは少し見方が違うようだが、それでもそんなものか……
「それがどうした」
「いや……」
トーヤはラーラ様と会ったこと、その明け方に見た夢の話とその後の自分の状態のことをルギに話した。
「ラーラ様にお会いしたのか」
「そうだ」
ルギは同じ姿勢でまた何かを考えていたようだが、
「分かった、何かあったらまた知らせにくる」
そう言うと黙ってトーヤの部屋を出ていった。
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