2 近道
トーヤは思っていた。
(もしかしたら、本当にこいつは俺の「助け手」になるんじゃねえか)
ダルのことである。
この日、海から逃げるとしたらここからの可能性もあると見に来たカトッティの港だが、まさかそこで偶然再会するとは思っても見なかった。
カポカポとのんびり歩く馬の後ろにダルを乗せながら、そういうことを考えた。
トーヤには考えがあった。そのためにもダルにもう一度宮に来てもらうのは願ったり叶ったりだ。考えようによると気味が悪いぐらいのタイミングではあったが、使えるものはなんでも使う。そんな気持ちだった。
宮に帰るとすぐにダルは身を
驚いたことに、ダル用の新しい服が数着仕立てられてあったのだ。
トーヤのと同じく木綿で
「ダルさんがまた来られる時にと思って。着てみた感じはいかがですか?」
ミーヤにそう聞かれ、言葉もなくクルクルと回って見せ、赤い顔をしてにっこり笑うダルは、トーヤの目から見ても大層かわいらしく思えた。
今回ダルが通されたのは、以前泊まった最高級の客室ではなく「前の宮」にある一室であった。
前の部屋ほどには豪華ではないが、それでもまだまだ持て余すほど広く、装飾もそれなりに施されてある。王族や貴族といった上流階級ではなくとも、遠方から来る首長やそれなりの立場の人間を迎えるための一室、そのうちの最上級らしい。ここもそうそう使われる機会はないらしいが、そのような何かのための部屋が宮にはまだまだあるらしい。
「もっと狭い部屋、侍女や衛士なんかと同じ部屋がいいって言ったんだがなあ」
ためいきをつくトーヤに、
「これ以上の
とミーヤがこぼし、ダルが声を上げて笑った。
ダルが言う通り、その夜は極上の魚メインのディナーだった。
得意そうに漁の話などをするダルに耳を
ルギは外に出かける時には供として必ず着いてきたが、一度部屋に戻るとそれから後は近寄ってくることはなかった。その点では宮の部屋にいるとほっとできる。
夜、ミーヤたちが部屋から下がると、後はダルと2人でまた色々とつまらぬことなどを話したりしたが、その話のついでのように、ふと、というように、
「そういや帰りは馬で送っていこうと思ってるんだがな、例の近道っての通ってみて大丈夫かな?」
と、話を振ってみた。
「ん、大丈夫だと思うけど?」
「いや、でもな、おまえ送ってくのに誰かと同乗するだろ、それでも行けるか?」
「細いけどそこまで危ない道でもないしな、行けるだろ」
「そうか、そんじゃルギにでも乗せてもらうか?」
「おいーやめてくれよー」
ダルが嫌そうに言うのにトーヤが笑った。
「そんじゃ俺が乗せるよ。そうして道教えてもらいがてら送ってくか」
「うん、それがいい、うん」
今回の目的は道を知ること。ダルが言う普通に使う近道だけではなく、その他の可能性のある道、そして以前ダルがぽろっとこぼした「
「ルギはどうでもいいとして、ミーヤは大丈夫かな」
「ああ大丈夫だよ、そこまで悪い道じゃないからね。前に通った道が立派過ぎるだけだ」
ダルが軽く笑う。
「そうか。あの道はすごかったからなあ。俺がいたところでもどこぞの中心の街とかではああいうのあったけど、それ以外は結構細いガタガタした道だったな。俺なんかやっぱりそっちの道通る方が多かった」
「そうなのか。トーヤのいたところってのもまた行ってみたいな」
「遠いけど、そのうち来いよ。今度は俺があっちこっち案内するからさ」
「でも遠いなあ、本当に遠いんだろうなあ」
「そりゃ遠かったさ」
「いつか行けたらなあ」
「来いよな」
「おう」
そんな話をしながらさらっと知りたいことを混ぜる。
「なんか、抜け道でもありゃいいのになあ、あっちまで」
「どんな抜け道だよ」
ダルが呆れたように言う。
「そうだな、でっかい
「なんだよそれ」
あまりの想像にダルが声を上げて笑う。
「そこを馬車でどんどん走って行ったら何日ぐらいで着けるようになるかな」
「楽しい夢だなあ」
「夢夢言ってるだけじゃだめだぜ。なんとか叶えようと思う気持ちが実現のための力になるんじゃねえかよ」
「楽しいこと言うよな、トーヤ」
またひとしきり笑った後、
「でもまあ、カースからこのへんまでの抜け道ならあるけどな」
「どーんと真っ直ぐの洞窟がか?」
からかうように言うトーヤだが、その目は抜け目なさそうにダルを見ている。
「似たようなもんだな。うん、洞窟だよ」
「本当にあるのか!」
「内緒だぜ?」
ダルがいたずらっぽい目でトーヤを見返した。
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