第41話
遺跡には翌日の朝に突入する為、今日は此処で野宿となる。
食事を食べながら、スタウトさんが話し出した。
「今日の見張りだけど、最初は僕とベル、次にヴァイとポーター、最後はアンバーとユートにお願いするよ。ミモザさんはゆっくり休んで下さい」
「お気遣いありがとうね~」
魔王城で見張りを買って出た時とは違う組み合わせだ。何か意図でもあるのだろうか。俺を戦力として見て貰えるようになった、という認識で良いのか。
まあ気にしないでおこう。何より可能な限りしっかり睡眠を取って、見張りの役目をやり遂げる事が大事だ。
そうして、スタウトさんとベルジアンさんを残し、皆でそれぞれテントに潜り込んだ。岩場が多い所なので下がゴツゴツしているが、何とか毛布を巻いて眠りに付く。
ふと気付くと、ヴァイツェンさんに肩をゆすられていた。もう時間か。
「…起きたか」
「はい、…ふぃぁぁ~」
まだ空は真っ暗だ。このまま夜明けまで見張りとなる。
「ほれ、起きろや」
「…ねむ」
どうやらアンバーさんも起きたようだ。
2人からはこれまでの間に何も無かったとの報告を受け、見張りを交代する。
野生動物だけでなく一部の魔物も火を忌避するので、焚火を絶やさないように見張りを続ける。
すると、アンバーさんが話し掛けて来た。
「ユートは、…年上と年下、どっちが好き?」
…どういう意図だろうか。暇潰しの他愛のない会話なのか、意味があるのか。
良くは判らないが、正直に答えておこう。
「どっちが好き、というのは無いです。極端な差があれば別ですけど、年齢で相手を選ぼうという気はありませんから」
「…そう。最悪の事態は免れた。良しとしておく」
アンバーさんが何やら言っている。
「次。…胸の大きい女性と小さい女性、どっちが好き?」
…これは俺の嗜好を聞かれているのか、性癖を聞かれているのか。
「…答えないと駄目ですか?」
「駄目。師匠命令」
師匠に逆らう訳には行かない。素直に答えよう。
「…普通?程々?まあ標準的な大きさが好きです。小さくても文句はありませんが、大き過ぎるのはちょっと嫌ですかね」
「うん。許容範囲。アルトも大丈夫、じきに成長する」
…こういう趣味趣向を否定されるのはとても悲しいが、女性に納得されるのはそれはそれで微妙だ。妙な恥ずかしさがこみ上げて来る。
「次。女装に興味はある?」
「ありません!」
即答だ。全力で否定しなくては。
だがアンバーさんは質問を畳み掛けて来る。
「…あの姿を自分で見て、楽しんだりは?」
「…最初の頃はじっくり見ましたよ、男ですし。でも自分自身だと思うと、そういう感情が湧かないんですよね」
師匠命令なので、包み隠さず答える。言ってて悲しくなる所業だ。
「…じゃあ、ユートじゃない身体なら?」
アンバーさんはそう言いながら、にじり寄って来る。そして俺の手の上にアンバーさんの掌が添えられた。
「…暖かい」
「…アンバーさんの手は、ちょっと冷たいですね」
この状況は何だろう。誘惑されているのか?いやでも手を添えられているだけだし、違うのか。
「…ユートは、元の世界に帰りたい?」
アンバーさんから発せられた質問は、これまでとは毛色が違っていた。
「…元々、転移者は元の世界に対する未練が薄い者が選ばれてます。俺も同様です。戻りたいとは思いませんよ」
これも正直に答える。
「じゃあ、この世界の住人として生きて行く?」
「ええ」
「将来は結婚もする?」
「あー、相手が居れば、でしょうけどね。今は未だ考えてませんよ」
「そう。…ちなみに、この国は貴族で無くても一夫多妻が認められている」
「…うん?」
「男の甲斐性。…頑張って」
何を頑張れと言うのか。貰い手の居ない嫁の斡旋でもされるのだろうか。今までの話はこの前振りだとしたら…。
「…じゃ、見張りを続ける」
そう言うとアンバーさんは俺から離れた。
心臓の鼓動が収まらない。女性に慣れていないから仕方ないのだが。
そんな感じで、妙な空気のまま夜明けまで俺達は見張りを続けた。
そして朝になり、遺跡の入口がはっきりと見えるようになった。
薄茶けた石組みの構造物。元は神殿か何かだったのだろうか。今では瓦礫が周囲に積み重なり、その全貌を想像するしか無い。
そんな遺跡の一角に、地下へと続く階段がある。
この『暁の遺跡』は地下10層のダンジョンで、既に何組もの冒険者パーティに踏破されている。なので地図が作られており、今回持参している。これで迷う事は無い筈だ。
作戦としては、最短距離で最下層まで踏破する。極力魔物との戦闘を避ける。そして最下層に居ると思われる元四天王、クアールを討伐する事だ。
「ここからは、ポーターが作戦の要になる。頼んだよ」
「おう!任せとけや」
「進み具合にもよるけど、途中で野営を行なう事になる。万全の状態で最下層に突入したい。なので怪我や魔力の過剰使用には注意すること」
スタウトさんから今回の注意事項が説明される。
「ユートは遊撃だ。連携の経験が浅いから、皆の動きを見て覚え、隙を見て攻撃を仕掛けてくれ。多少のミスならフォロー出来るから、気にせず試してごらん」
「判りました。勉強させて貰います」
俺の弱点の1つを克服するのに、今回は良い機会のようだ。
「では、出発!」
スタウトさんの掛け声を受け、皆で階段を降りて行った。
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