第54話
翌日、俺達は無事村に戻って来ていた。
あの後も数回訓練を繰り返し、4人を充分に鍛える事が出来た。特にトールとリューイを鍛えた事により、新兵を鍛える選択肢が増えたのだ。
という事で、早速本日の新兵の訓練から、その選択肢を選ぶ事にした。
「それでは、行ってきます」
先ずはリューイの第二小隊が、俺の持つ転送陣を使い魔王城9層に飛ぶ。
リューイ達の目的は、俺が以前行なっていたアラクネ狩りだ。今回の訓練でトールとリューイは充分対処可能となったので、新兵のレベル上げも兼ねて狩りを行なう事とした。
糸紡ぎだけは俺がやらないといけないが、あれは執務のついでに出来るので、時間的な問題は無い。現在の資金は豊富だが、将来の為にも金策は継続する事にしたのだ。
この狩りを各隊が週1~2回の頻度で行なう。回数の調整はアラクネの増殖数に拠る。数が減り過ぎたら日を置く事にしている。
という事でリューイ達を見送り、現在は午前の執務の時間だ。アルト自身大分強くなったが、継続して俺が護衛として同席している。
アルトが書類を見ながら、口を開く。
「管轄する領が広くなった関係で、他にも幾つかの村が管理対象になったわ。後で現状視察が必要ね」
王家からの褒章で、アルトが代行する領の範囲が広がった。流石にデルムの街までは含まれなかったが、その手前までが所領となっている。
今居る村だけに尽力して来たが、これからはあまり格差の無いように対処する事が求められるのだ。
「兵を常駐させるのは難しいから、此処で増やした兵を広範囲に巡回させる方が良いわ。訓練の均一化もやり易いし」
「となると、隊そのものを増やすか、各隊の人員を増やすか、どっちが良いんだ?」
「各隊の人員を増やした方が良いわ。隊の中で半分が巡回、残り半分が訓練、という風に分けた方が管理もし易いし」
アルトの意見に俺も納得する。そもそも現状は兵役に必要な最低限の人員しか居ないのだ。巡回や予備を考慮すると、兵を増やすのは間違っていない。初期投資は兎も角、運転資金は給金で充分賄える。
「なら、後でシアンに増員を頼んでおこう。エストさんから仕事を引き継ぐ、良い機会になるだろうしな」
ちなみにシアンは今日、疲労と筋肉痛で寝込んでいる。明日には復帰出来ると良いのだが。流石に無理をさせ過ぎたか。
実際、シアンは最終的に訓練前のアルトに並ぶ程度まで鍛えられた。戦闘技術そのものは不得手だが、レベルと身体強化は充分だろう。
ただ其処までになるのにバランタインさんも苦労したようで、「今までで一番難儀だった」と愚痴を漏らしていた程だ。結果としてシアン自身も大分無理をしたようだ。
「それで視察だけど、なるべく早い方が良いわ。問題無ければ明日にでも行きたいわね」
「なら近いから護衛も必要無いし、少人数で回るか。俺とアルト、それにシアンで充分か?」
「エストも連れて行きましょう。シアンへの引き継ぎを平行してやらせるわ」
「了解。じゃあその時に兵の補充の話もするか」
そして翌日。無事シアンも元気になったので、4人で村を出発する。御者はエストさんが務め、シアンは隣で仕事を教わっている。俺とアルトは馬車の中だ。
「師匠は宿場には行った事があるのよね。どうだった?」
「経済面では現状維持だろうな、あくまで宿場だし。ただ魔物対策は不十分だったから、今の村と同様に柵の改修が必要かな」
「そう。宿自体が不足しているなら拡充も有りだけど、そんな様子じゃないのね。なら確かに治安向上が先決かしらね」
「兵の巡回もその一環だしな。後は街道の整備くらいか?でも歩いた限りでは充分整備されていたし、急いで手を付ける所じゃ無いか」
「そうね。それなら他の村の経済政策が優先になるわね。恐らく今の村の以前の状態と同様でしょうし。こっちに移住してくれれば楽なのだけど」
管理する側としては、小さな村がバラバラに点在しているよりは集約した方が楽なのだが、それを良しとする住人は少ないだろう。極端な不作や慢性的な魔物の襲撃など、大きな問題が無い限りは。
「そうだ、話は変わるのだけど、そろそろスタウトさん達が活動再開するわ。でも姉様は別行動で村に滞在するから」
「ん?アンバーさんが別行動って、何か理由が?」
以前にも俺の訓練の為にアンバーさんが同行してくれたが、今回はそのような要件は無い。何故だろうか。
「理由は個人的な事情だから話せないわ。でも少なくとも何か問題があるとかじゃ無いから。お互い承知の上での別行動よ」
「んー、なら良いか」
不穏な理由で無ければ別に良いだろう。事情を無理に掘り返す理由も無いし。
然程時間は掛からずに、一番近い村に到着した。外観を見る限りでは今の村よりも小規模か。
早速村長の家へ挨拶に向かう。村長は云わば代官としての業務も行なっているので、アルトの配下のような位置付けになる。
其処で村の現状、人数や税収、治安等について聴取を行なう。筆記はシアンが行なっている。早速引き継ぎをしているようだ。
やはり若者の多くは街へ行き、働き手が減っているようだ。後は医療に不安があるようだ。教会が無いので治癒術士は常駐しておらず、薬師も高齢の人が1人居るだけとの事だ。
次の村でもほぼ同様の状況で、更に魔物により畑が荒らされる事もあるそうだ。
流石にその場では結論は出せないので、情報だけ得て去る事になる。
馬車の中で、俺は口を開く。
「やっぱり難しいんだろうけど、村の集約化が必要じゃないか?」
「問題になるのは農業従事者ね。同じ面積の畑を用意して、更に当面の生活費も与えないと。それでも土地に愛着があれば拒否するでしょうし。…ただ、先刻の村は魔物の被害もあるから、移住は受け入れられ易いかもね」
成程。今の所畑の被害だけだが、人が被害を受ける可能性もある。それならより安全な所に移住するのは受け入れられ易いか。
「だから、案としては2つ目の村を1つ目の村に集約。そして村の規模を大きくして、教会を置くか薬師を呼び込む。そして柵の改修と兵の巡回で治安向上、という所かしら」
「それなら可能性がありそうだな。俺も異論は無い。村も近い方が巡回もし易いしな」
大枠の方針は決まったようだ。後は詳細な計画を策定し、村民を説得する事になるだろう。1つ目の村も過疎化している関係で、家や土地には空きがある。元々畑だった所もあるので、受け入れは可能そうだ。
「この案件は私とエストで進めるから、兵の増員と兵舎の拡張については師匠とシアンで進めて頂戴」
「了解。それ位なら任されても大丈夫だ」
そうして俺達は、街道沿いの宿場に行き一泊した。
宿場には村長などの代官を代行する者は居らず、年に1回役人が出向き、個別に税を納めて貰っている。本日はアルトが領主代行として初の面通しになる。
宿泊前に一通り建物を回り、挨拶だけしておく。
一応領主代行としての立場もある為、俺が以前泊まった安い方の宿では無く、高い方の宿に泊まる事になった。部屋割りは俺とシアン、アルトとエストさんだ。
俺は早速シアンに話し掛ける。
「村に戻ったら、早速兵の増員を行なうぞ。各隊9名ずつ、計18名の新兵確保だ。エストさんから引き継いで対応してくれ」
「承知しました。その辺りは今日の行程で引き継いでます。併せて兵舎の拡張も対応します。でも人数を考えれば、小隊毎に兵舎を持つ方が良さそうですが」
「まあ、拡張だとその間の住居にも困るしな。良し、それなら同じ大きさの兵舎をもう1つ建てるか」
「資金は当面問題ありませんので、ご安心下さい」
こうして、兵の増員についても目途が立ったのだった。
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