第159話

 多くの学生が躊躇する中で、1組の集団が俺に向かって来た。全員が剣を持っている。仲間同士だろうか。

 俺はその場から動かずに待つ。

 剣を振りかぶって来た1人目の攻撃を躱し、その剣を奪う。

 そして2人目の剣の根本近くを打つ。鈍い金属音と共に相手の剣が手から離れる。

 そのまま3人目・4人目も同様に剣を弾く。2人目以降は、痺れた手を押さえていた。

 さて、これでどう動くかと様子を見ていると、1人声を挙げる者が居た。

「弓兵は先ず一斉射を行なう。僕の合図に合わせろ!槍兵は間合いを取って包囲!近接は一斉射の後に全方位から切り込む!行くぞ!」

 ディアン君のその声に、学生の半分程度が従う。中々の判断力と指揮統率力だ。只のレベル至上主義の男では無いらしい。

 彼の合図で俺に向けて矢が一斉に襲い掛かる。この場を退くのが一番楽なのだが、壁を見せるのが目的だ。俺はその場に留まった。

 そして向かって来る矢を、全て剣で叩き落す。不慣れな直剣だが、この程度なら問題無い。

 続いて剣を持った10数名が一斉に掛かって来る。気配感知で背後から来ているのも把握済みだ。

 僅かな距離の差から、近い順に同様に剣の根元を打って行く。その度に相手の剣がその手から離れ、飛んで行く。

 だが最後の1人は何とか一撃を堪えた。ディアン君だ。

「…良く耐えた」

 俺は一言そう言い、次撃でその剣を吹き飛ばす。

 だが彼は最後に声を挙げる。

「未だ槍兵!一斉に掛かれ!」

 周囲を囲んでいた穂先が、真っ直ぐ俺に向かって来る。

 俺は大きく跳躍し、空中で一回転。囲いの外側に着地した。

 これで連携が崩れたのか、槍兵はバラバラに向かって来る。槍兵の基本運用は密集形態での連動だ。ファランクスや槍衾のイメージだ。それが個別に向かって来るなら、間合いが長いだけで剣と変わり無い。

 俺は剣を地面に刺すと、槍を掴んで学生ごと遠心力で投げ飛ばす。怪我をしない程度に加減しているが、どんどん学生が転がって行く。

 そしてすべての槍を奪った頃、学生は半分にまで減っていた。

 もしかしてこれで降参するのかと思ったが、2人俺にゆっくり向かって来た。

 剣の構えや動きを見るに、ディアン君よりも剣術を磨いている事が判る。俺は地面に刺した剣を抜き、待ち構えた。

「やあっ!」

 1人目が上段から剣を振るう。俺は同様に剣の根本を打つが、剣の角度を変えて受け流された。そのまま俺の横を抜けて行く。

 その背後に隠れていた2人目が、突きを放って来る。俺は上体を逸らして躱すが、その隙に1人目が足を狙い切り払う。

 俺はそれを剣で受け、同時に鍔を蹴り上げる。これで彼の手から剣が離れた。

 2人目の二度目の突きを伏せて躱し、根本に向けて剣を振り上げる。金属音を奏でて剣が宙を飛ぶ。

「…お見事」

 俺は一言そう告げる。中々の技量だ。

 すると残りの学生は武器を手放し、両手を挙げた。降参のようだ。この2人以上の技量は無いと自らを見極めたのなら、良い判断だ。

 俺は皆に聞こえるように声を挙げた。

「では総括です。まずディアン君」

「は…はい」

 彼は未だ右手を押さえている。痺れが取れないのだろう。

「良く一撃目を堪えました。それに指揮統率には目を見張る物がありました。今後も精進するように」

「あ…有難う御座います!」

 次に俺は、先程の2人に視線を移す。

「最後の2人…名前は?」

「アイク、です」「レイドと申します」

「2人の連携、それに剣術は見事でした。技術面では既に抜きんでています。何か特別な訓練を?」

 この問いにはレイドが答えた。

「俺達はレベルが低いんで、技術で追い着けるよう必死に訓練して来ました」

「成程、そのまま精進して下さい。レベルは何時でも上げられますので」

 そして俺は全員に視線を向ける。

「少々偉そうなことを言いますが、これが戦場で名を残す者の実力です。ですか落胆しないで下さい。全員がディアン君のレベル、それにアイク君やレイド君の技術を持っていたら、私は苦戦どころか負けるかも知れません。戦は一対一ではありませんから、歩みを止めずに努力を続けて下さい」

 そんな言葉で締め、講義自体は終了した。

 時間が余ったので、残りは質問を受け付ける事にしたのだが。

 案の定というべきか、俺の竜人体に関する質問が集中した。今は隠してもいないので正直に答えたが。

 後は身体強化や訓練に関するアドバイスなどをして、時間は終了した。最後は皆から拍手を貰えたので、一応成功したと言えるだろう。

 その後は学食に案内され、昼食を頂いた。流石は身体が資本の学校だ、結構なボリュームの食事が出て来た。

「大成功でしたね兄貴!無双っぷりが凄かったっすよ!」

「やり過ぎでなけりゃ良かったんだが。…八重樫さんもお疲れ」

「いえ、私も勉強になりましたので。…私も何か武器を嗜んだ方が良いのでしょうか?」

「速さを活かすなら、小回り重視でダガーやショートソードか?」

「そうですか。村に戻ったら試してみますね」

 八重樫さんは何やらやる気を出しているようだ。前向きなのは良い傾向だろう。

「午後はアンバーさん達だけど、上手く行きそうか?」

「…平気。王道で行く」

 魔術指導の王道とは何なのだろうか。良く判らないが、自信があるなら大丈夫だろう。


 昼食を終えた俺達は、魔術学園に移動した。

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