第160話

 魔術学園の大講堂には、騎士学校よりも多くの学生が集まっていた。

 全員が同色のローブを制服代わりに着用しており、若干異様な光景に見えた。男女比は女性の方が多いだろうか。

 堂々と教壇に向かうアンバーさんと、その後を追う萌美と祥。その背中は自信に満ち溢れていた。

 アンバーさんは学生の方を向くと、声を発した。

「…私は、元勇者パーティのアンバー=ツムギハラ。今回、特別講師を務める。…宜しく」

 何時も通りの話し口調での自己紹介を済ませ、いよいよ講義に入る。

 するとチョークを持ち、背後の黒板に文字を書いた。

「…魔法は大別して、攻撃、防御、治癒、阻害、補助の5つに分けられる。…どれが一番重要なのか、それぞれ手を挙げて欲しい」

 こうして5項目のどれが重要かの多数決が始まった。祥が人数を数え、萌美が黒板に書いて行く。

 そして結果は、攻撃が過半数を占める事となった。それ以外は団栗の背比べだ。

「…予想通り。相手を倒すには攻撃する必要があるから、この結果も納得。…でも戦争を経験した立場で言わせて貰うと、集団戦なら防御が一番大事。多くの命を奪う可能性のある攻撃から、仲間を守る役目を担う事になる」

 その言葉に学生達が少しざわつく。納得しかねる者も多いのだろう。

 そんな中、1人の学生が声を挙げた。

「なら集団戦でなく、一対一の場合はどうなんですか?」

 金髪を両サイドで結った少女だった。その表情には勝気さが垣間見える。

「…それなら攻撃、と言いたい所だけど。私なら防御と阻害。魔法の撃ち合いに持ち込ませず、有利に事を運ぶようにする」

 質問した彼女は、アンバーさんの答えに納得した様子は無い。

「…なので実際に納得して貰う。皆、外へ出て」

 何やら俺の時と同じような話の運び方だ。俺達も学生の後に続く。

 グラウンドの中央に3人が立ち、その周囲を学生達が囲む形になる。

「…私達は、攻撃魔法は使わない。見事倒してみせて…では、始め」

 その合図に従い、学生達が一斉に魔法を唱え始める。だがそれよりも早く、アンバーさん達の魔法が発動した。

「…獄炎縛鎖遮陣(ヘル・チェイン)」

「轟雷防護風旋(ヴォルテック・ガード)!」

「聖光鱗防護陣(ホーリー・スケイル)」

 三種の防護魔法が3人の周囲を覆う。その直後に放たれた学生達の魔法はその悉くが防がれ、防護魔法を一枚破る事も出来なかった。

 見た限り、学生達の魔法は中級~上級だ。この人数なら未熟な事を加味しても、相当な威力だろう。それを防ぎ切った皆の成長に驚く。

「…広範風旋縛(ハイウィンド・バインド)」

「台地崩落陣(ディグ・ホール)!」

「閃光招来(フラッシュ・インビテーション)」

 そして続いて放たれる阻害魔法。束縛、落とし穴、そして目潰し。

 次々と学生達が行動不能になって行く。魔法をまともに放てる者は居なくなり、防護魔法は維持されたままだ。

「…これが集団戦なら、武器を持つ者に近付かれて終わり。同数でも、この状態からの魔法の撃ち合いならこちらの勝ち。…異論はある?」

 その言葉に、学生の全員が降参したようだ。理論的な思考に慣れているのか、随分と素直である。

「…最後に、防護魔法の極致を見せる。…ユート、こっちに来て」

 …そういう算段か。俺は素直にアンバーさんの所へ向かう。

 今度は俺が中央に、3人は学生側に移動する。

「…彼はグランダル戦の英雄で、私の旦那様。…良く見ていて」

 その紹介の仕方はどうかと思うが、まあ良い。俺は魔法を唱える。

「轟雷風防護神界(トルネード・ガード)!」

 雷と強風に空間が阻まれる。其処に向け3人が魔法を放った。

「…獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)」

「水刃多層旋陣(カッター・ウォール)!」

「殲滅光断罪陣(イナレーション・レーザー)」

 更なる轟音が響くが、防護魔法は健在だった。

「…見ての通り、極めれば最上級魔法を何度も防ぐ。…仲間を守る盾である事を忘れないで」

 アンバーさんのその言葉で、実演は締められた。

 その後は俺の時と同様に、学生からの質問を受け付ける場となった。

 何やら祥の所には女学生が集まっている。本人もかなり嬉しそうだ。

 治癒魔法を身に付けた学生も数人居るようで、萌美の所に質問に来ていた。最後に使った攻撃魔法に興味があるようだ。

 アンバーさんは1人1人ゆっくり対応している。真剣な学生が多いようだ。

 そして何故か俺の所にも何人か学生が来た。神代級魔法に興味があるらしい。取り敢えず「最上級魔法を極めてから、もう一度尋ねなさい」と、最もらしい事を言っておいた。

 こうして魔術学園での特別講義も無事完了し、依頼を終わらせる事が出来た。

 俺は依頼完了のギルドへの報告を皆に任せ、別行動をする。向かうのは以前に神代級魔法の魔導書を入手した魔導具店だ。

 俺は早速店に入り、声を掛ける。

「スーラスさん、お久しぶりです」

「おや、英雄様じゃないか。どうしたんだい?」

「別件でこっちに来たんで、約束を果たしに来ました」

「おや…使えたのかい。やっぱり魔力量が原因だったかい?」

「ええ。私の部下では覚える事は出来ましたが、唱えられませんでしたので」

「そうかい。それが判っただけでも収穫だ。で、見せてくれるのかい?」

「構いませんが、何処か良い場所はありませんか?」

「なら向こう、王都の外なら何も無い。何をやっても平気さ。ただ足腰が悪くてね、連れて行ってくれるかい?」

「了解です。じゃあ時空魔法で移動しますので、掴まって下さい」


 そうして俺達は、王都の外に向かった。

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