第161話
「次元移動陣(ディメンション・ムーブ)!」
幾度目かの魔法を唱え、俺達は王都の外へと移動した。外壁を臨むその場所は、周囲に人気の無い所だった。良く見ると周りの岩が焦げたりしている。
「此処はね、時折冒険者とかが訓練に使っている所なのさ。多少音が鳴っても兵が来たりはしないから安心しな」
そういう事なら、余計な騒ぎにならなくて助かる。
「それで、何から見せれば良いですか?」
「おや、幾つも使えるのかい?」
「ええ一応。じゃあ適当にやって行きますね」
「ああ頼むよ」
俺は早速、竜人体に成る。元の姿では使える魔法が限られるからな。
「おや…人から竜人体に成るとはねぇ。性別も変わるなんて、随分と変わった体質じゃないか」
「色々事情がありまして。…じゃあ行きますよ」
俺はそう答え、神代級魔法を唱え始めた。
風属性、火属性、地属性、時空、召喚、治癒。水属性は使えないので、それ以外を実際に使って見せた。
その度にスーラスさんは感嘆の声を挙げた。心底楽しんでいるようだ。
全てを唱え終えると、俺は一息ついた。
「ふう…以上です。如何でしたか?」
「いや見事だね。大した技量と魔力量だよ。あの魔導書を売った甲斐があったね」
「そうですか。でも…」
其処で俺はどうしても聞きたい事があったので、尋ねてみる。
「魔力量なら貴女も条件を満たしているでしょう。何で私に頼んだんですか?」
するとスーラスさんはにやりと笑みを浮かべた。
「おや…気付いてたのかい。なら教えようかね。私じゃあ2種類しか使えないのさ」
扱える属性が少ないという事か。でも仮に1属性でも、それに加えて召喚と時空は習得出来る筈。それだけの技量もあるだろう。
そう考えていると、彼女は三角帽を脱いだ。露わになった頭部には、2本の角が生えていた。
「…竜族、ですか?」
「そうさ。しかも混血だよ。親は慈竜と幻竜でね、親から継いだ属性しか使えないのさ」
「それが何故、人族に紛れて生活を?」
「純粋な血筋を是とする竜族では、混血は忌み嫌われているのさ。なので両親はそれぞれの住処を離れ、人族の中で生活する事にしたのさ。だが知っての通り、人族とは寿命が違うからね。止む無く各地を渡り歩いたのさ」
確かに人族と比べて年を取らないから、同じ所に留まるのは難しいのだろう。
「両親が死んだ後も、私一人で同じように各地を渡り歩いた。王都には10年程前から住まわせて貰っているよ」
竜族として生まれてこの年まで生きてきたのなら、恐らく数千年は経っているのだろう。決して楽な生活では無かった筈だ。
「短い生を必死に生きる人族に感化されてね、私も興味を持った物を追求してみたのさ。その結果が神代級魔法って訳さ」
そこまで話すと、彼女は手をぱんと叩いた。
「私の話はここまでだ。次はあんたの番だ。その姿について聞かせて貰おうかね」
俺は素直に、こちらの世界に転移してからの話をした。最近では慈竜の竜玉を取り込んだ所までだ。
「ほう…興味深いね。人為的に成せるのなら、竜族にとって脅威に成り得るね」
「自分はそんな気は無いんですけどね。竜族には友人も多いですし」
「実例がありそれが魅力的なら、試してみるのが人族だからね。警戒するのも当然さ」
確かにやりそうな人を一人知っている以上、言い返す事が出来ない。
「さて…じゃあ店に戻るかね。また頼むよ」
そう言われ、俺はまた時空魔法で店まで移動した。
店内に戻ると、「少し待ってな」と言われたので待つ事にした。
暫くして奥から戻って来ると、何かを俺に投げつけて来た。それを俺は思わず受け取る。
それは竜玉だった。しかも2つ。気付いた時には俺の身体に取り込まれてしまった。
「え?…もしかして今のは」
「そうさ、私の両親のだよ。変な奴の手に渡ったら困るからね、預けさせて貰ったよ」
「…返せと言われても、取り出せないんですが」
「構わないよ。ちゃんと魔法を見せに来た律儀さを買っただけさ。取り込んだ分だけ力になるんだろう?ならしっかり役立てておくれ」
「…判りました。大事にさせて頂きます」
「それで良い。出来れば私のも預かって欲しいんだけどね、まだお迎えが来ないからねぇ」
死生観が軽く見えるのは、長く生きた結果なのだろうか。
「私が生きてる間に亡くなられるかも判りませんしね」
「そうさね。まあ暫くは此処で余生を過ごすさ」
「…気が向いたら、私達の村に来ませんか?竜族も住んでいますよ」
「それは面白い提案だね。此処が居辛くなったらお世話になろうかね。それまでにしっかり発展させておいてくれ」
「了解です。お待ちしてますので」
俺はそう答え、店を後にした。思わぬ収穫だったが、申し訳無さも感じてしまう。
しかし、そろそろ自分の強さが判らなくなって来た。竜玉を幾つも取り込んで魔力量も相当増えたが、比べる対象が居ないのだ。
一度、バランタインさんの所にでも行ってみるか。あの人なら明確な答えをくれそうな気がする。
俺はそう考えながら、皆との合流場所に向かった。
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