第162話

 皆と合流して帰路に着いた俺達は、無事村へと戻って来た。

 そして俺は早速一人で魔王城へと向かう事にした。

 アイリさんとの挨拶を済ませ、早速バランタインさんの部屋へと向かった。

「ユートか。何かあったか?」

「いえ、ちょっと相談がありまして…」

 俺は早速、今の自分の実力が把握出来ていない事を伝えた。

「成程な。確かに魔力量を見るだけでも、他の八大竜王を遥かに凌駕しておる。既に先代の火竜王をも超えておるな」

「やっぱりですか。今の姿なら兎も角、竜人体だと既に人外の域ですよね…」

「ふむ…ならば我と戦ってみるか?我もユートの実力には興味がある」

「そうですね…じゃあお願いします」

 俺がそう答えると、バランタインさんは竜人体に成った。以前にも見た紳士の姿だ。

「先ずは好きに攻撃してみよ」

「では…行きます!」

 俺はそう答え、竜人体に成りカタナを抜く。バランタインさんと直接戦うのは初めてだ。

「轟炎収束爆神界(コンバージェンス・バースト)!」

 幾つもの炎がバランタインさんに集まり、大爆発を起こす。爆炎でその姿が掻き消える。

「時流加速(クロノス・アクセル)!」

 自らの速度を上げ、先程までバランタインさんが居た場所に斬り込む。

 振り抜いたカタナが、ぎぃん、という音と共にその動きを止める。その先にはバランタインさんの手があった。…素手で防がれたのか。

 俺は一歩距離を置き、カタナを再度構える。バランタインさんはその場から一歩も動いておらず、傷一つ負っていなかった。

「はあっ!」

 今度はカタナによる連撃を繰り出す。だがその全てを片手で防がれてしまう。

 俺は既に実感していた。此処まで実力差があるのかと。

「成程…剣の腕、それに魔法も大したものだ。竜族の群れをも殲滅可能であろう」

 バランタインさんは誉めてくれているようだが、俺はそれ所では無い。攻撃が全く効果が無いのだ。

「だが…我、そして白竜王には未だ遠く及ばぬ。次は我も手を出す。加減するから避けてみよ」

 そう言うなり、その姿が消える。同時に真横に気配が生じた。

 俺はその方向に何とかカタナを掲げ、蹴りの一撃を防ぐ。殆ど偶然防げた事に安心したのも束の間、俺の身体は後方に吹き飛ばされる。

 壁に激突する直前に足を着き、体勢を整える。だが顔を上げた先には誰も居ない。

「石柱無限立神界(インフィニット・ピラー)」

 突如上下から石の柱が超速で伸びて来る。

「聖光鱗防護陣(ホーリー・スケイル)!」

 間一髪で防護魔法が間に合う。だがものの数撃で破壊され、石柱が何度も身体を削って行く。

「…最上位回復陣(ハイエスト・ヒール)」

 何とか治癒魔法で傷は塞ぐが、流れ出た血は戻らない。加減されているのに打開の糸口も見つからない状況だ。

「時流遡回帰陣(クロノス・レトロアクティブ)」

「!?」

 バランタインさんの魔法で、身体が傷を負った状態に巻き戻される。

 そして再度治癒する間も無く、身体が後方に物凄い勢いで吹き飛ぶ。

 壁に激突する鈍い音と共に、俺は意識を手放した。


 気が付くと、竜の姿に戻ったバランタインさんが見下ろしていた。

「ふむ…治癒魔法は掛けた。問題無いか?」

 俺は立ち上がり、手足を動かしてみる。うん、問題無い。頭は少しくらくらするが。

「大丈夫です。…全然手が出ませんでしたね」

「いや、あそこまで保ったのは僥倖だ。我らに次ぐ実力なのは確かであろう」

「そうなんですか?手加減されたのに完敗でしたけど」

「最初の一撃で落ちると思っておったからな、あれを凌いだだけでも大したものだ」

 あれは殆ど偶然だったのだが。

「では改めて言葉で伝えよう。既にその実力は人族の域にあらず。竜族・神霊をも凌ぎ、我らに次ぐ実力だ」

「…つまり?」

「女神を除けば、この世界で三番目の力を持っているという事だ。その差は大きいがな」

 何とも不思議な感覚だ。王国の一貴族には過剰だろう。神話の英雄レベルのスケールだ。

「我は、ユートが其処までの力を得た事に理由があると思うておる。恩寵の導きと言っても良い。なので慢心せず、自らを鍛え続けよ」

「…判りました。人外なのは今更ですしね。今まで通り頑張ってみます」

「それで良かろう。…これは褒美だ、受け取っておけ」

 そう言い、渡されたのは水色に輝く竜玉だった。俺の身体に取り込まれるのを見届けてから、尋ねてみる。

「何でバランタインさんが竜玉を?」

「人族に害成す竜族を屠るのも、我の役目だったのでな。これで全ての属性を扱えるであろう」

「有難う御座います。次はもう少し善戦出来るよう、頑張りますね」


 俺はそう感謝を告げ、部屋を後にした。

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