第104話
ケビンさんからの連絡は、4人目の転移者である男子高校生の情報についてだった。
名前はショウ=ハタモト。その者は現在、グランダルの首都にて投獄されていると言う。罪状は不明。
ケビンさんは可能な限り顔を見せないようにしているため、直接面会はしなかったそうだ。
戦争があったばかりのグランダルだが、現在国境は閉鎖されておらず入国は可能だ。
なので皆に説明を済ませ、数日後に馬車で出発した。1人の方が動き易いので、同行者は無しだ。
戦場となった街道を抜け、グランダルに入国する。国境はすんなりと通過出来た。
そして国境に近い最初の街に到着する。所々から黒い煙が立ち上っているが、鍛冶や工業が盛んなのだろうか。
宿を確保した俺は、早速街を散策してみる。
戦争には負けたが攻められた訳では無いので、暮らし振りは普通のようだ。特に暗い感じもしない。
見るとやはり鍛冶や鉄工業が盛んな街のようだ。街の近くに鉱山があるのかも知れない。
暫くして宿に戻る。部屋には風呂釜があり、水道が引かれていた。技術的な生活水準は高いようだ。
そして翌朝、街を出発する。
昨日は気付かなかったが、冒険者が少なく感じる。ギルドの影響力が低いのだろうか。
その後も幾つかの宿場を経由し、やっと首都へと到着した。
城や本殿のような高層建造物が無く、ややのっぺりとした感じに見える。議会制の国なので、象徴的な建物は不要という事か。
話によると牢獄は兵舎の地下にあるとの事で、まずは其処が目的地になるだろう。
同様に宿を取り、早速兵舎へと向かう。
兵舎の入口には兵が2人立っていたので、そちらに向けて尋ねた。
「すみません。投獄されている人に面会したいのですが、こちらで宜しいですか?」
「ああ、中に入って直ぐの受付に言ってくれ」
そう返されたので、早速中に入る。
中は小さ目のホールになっており、正面に受付がある。俺は近寄り口を開いた。
「投獄されている人への面会希望なのですが」
「それでは、こちらにお名前と面会相手の名前をご記入下さい」
そう言われ、俺は必要事項を記入する。念のため、自分の名前は家名を書かなかった。
記入した用紙を差し出すと、受付の人は手近の兵を呼び、何やら説明している。
「…では、こちらの者が案内しますので、後に付いて行って下さい」
「判りました」
俺はそう返し、兵の後に続く。
受付横の扉を開け、階段を下に降りて行く。徐々にカビ臭さが鼻に付く。
降りた先には通路が真っ直ぐ伸び、その両側に牢屋が並んでいた。
真っ直ぐ進む兵に付いて行く。見た感じ、牢屋は半分ほど埋まっているようだ。
そして途中で止まり、右側を向く。其処にはボロ布を纏った1人の少年が居た。
「俺は階段の手前で待っている。話が終わったら報告しろ」
「判りました。有難う御座います」
俺はそう返し、改めて少年を見る。整った顔立ちだがやつれており、くたびれた様子で地面に座っている。相当長く収監されている感じだ。
「ショウ=ハタモト…いや、ハタモト ショウさんで間違い無いですか?」
俺の呼び掛けに、少年は眼を見開いた。
「その呼び方…同郷、ですか?」
「ええ。紬原 侑人と言います。12番目に転移しました。ショウさんは4番目ですよね」
「そうです。でも、何故此処に?」
「同じ転移者を探し出して、困っていれば助ける事にしています。…単刀直入に聞きますが、牢屋に投獄された理由は?」
すると少年…ショウはゆっくりと口を開いた。
「確か罪状は…女神崇拝罪と勇者詐称罪、だったと思います」
「…捕まった経緯は?」
「この街に転移して来て、でもお金が無いしお腹は空くし、恩寵は貰ったけど魔法の使い方が判らないし。なので役所で仕事を求めたんです。…その時に、自分の事を女神に遣わされた勇者だ、と…」
「………」
状況を整理しよう。まずこの国は、女神信仰を禁止している。そして勇者を不当に名乗る事も禁止している。そしてショウはその2つの罪で捕まった。
さて、問題は罪の重さだ。江戸時代のキリスト教信仰と同程度だとしたら重罪だ。罰金を払って釈放という訳には行かない。そうで無くても異教徒弾圧は過激になりがちだ。
「それで、どの程度の罪なんですか?」
「…もう直ぐ裁判が行われるそうです。其処で量刑が決まるのですが、良くて鉱山行き、悪ければ…」
その後の言葉は続かなかったが、その青ざめた表情を見れば判る。
…どうするべきか。助けてやりたいが、無理矢理助け出すのは最終手段だ。ならば裁判の結果を見てから動くか。即刻刑が執行されない事が条件だが。
判断するには情報が足りないようだ。俺はショウに伝える。
「色々と手を打ってみますから、諦めないで下さい。最悪の場合は脱獄させます」
「お…お願い、します…ううっ」
ショウは俺の手を握ると、ぼろぼろと涙を零し始めた。
彼が落ち着いた所で牢獄を出る。戻り際に受付に尋ねてみた。
「彼の裁判の日程って、決まっていますか?」
「ええと…ああ、3日後ですね」
「そうですか、有難う御座います」
俺はそう返し、立ち去る。
タイムリミットは今日を含めて3日。期限が差し迫っていた。
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