第103話
皆の所に戻った俺は、エレベーターを降りながら先程の出来事を話した。
「成程な、実際に会えたとは。その成果がそれか」
フィーラウルさんが俺の右目を見ながら言う。
「ええ。今後何かの役に立つかと思いまして」
ちなみに元の姿に戻っても、右目の魔方陣は消えない事を確認済みだ。
そして1層に戻った俺達は、馬車に乗り正教都へと向かった。約束通り、今回の出来事を教主に報告する為だ。
本殿の教主の部屋に通され、出来事を一通り説明する。
話を聞き終えると、教主は溜息をついた。
「やはり神霊に至らねば会えぬか…。何とかならぬものかのう」
「…女神様に会いたいのですか?」
「当たり前じゃろう。我らが崇める神じゃぞ。死ぬまでに一度拝謁賜りたいと思うのは当然じゃろうて」
俺にとっては2度目の邂逅で特別な感動は無かったが、この世界の人にとっては崇拝の対象だ。感じ方が違うのだろう。
「兎に角、よう報告してくれた。これで儂の最後の務めがはっきりしたわい」
そう言う教主の目は、野心に満ちていた。
「…まさか、挑むつもりですか?」
「詳しくは言えぬがの、何とかしてみせようぞ」
正直、教主とは直接やり合っていないから強さが判らない。長く生きているので高レベルなのかも知れないが。
だが本人の希望だ、止める事も無いだろう。
そうして正教都を離れ、無事村に戻って来た。
フィーラウルさんからは改めて礼を言われた。そしてシンシアさん達からは、あまり力になれなかった事を詫びられた。そんな事は無いと思うのだが。
皆に別れを告げ、自分の屋敷に戻る。其処でも同じ話を報告した。
そして俺は、今後の新たな目的について説明した。
自分と同じ転移者を見付け、困っていたら助ける。逆に国にとって脅威となるようなら、止めるなりする。
皆も納得してくれたので、アルトに頼んでケビンさんを呼んで貰う事にした。
数日後に訪れたケビンさんに、俺は同じ話を伝えた。そして協力を願い出た。
王家隠密に調査をして貰い、必要なら自分が訪れる方法だ。あまり村を空けると、夫婦仲に問題が出るという理由もある。
ケビンさんも納得してくれたので、早速地図に対象を書き出す事にした。
千里眼を発動し、北から時計回りに探って行く。そして方角と距離を伝え、地図に目印を付けて行く。
最終的に既に判明している5人を除き、10名の位置が判明した。その殆どが他国だ。
つまり他に死亡している者が居ないなら、同じ時期の転移者が5名、それ以前の転移者が5名となる。
なお国の脅威とならず、普通に生活している場合は不干渉とした。
ケビンさんは地図を持ち帰った。今後は随時報告をしてくれるそうだ。
こうして無事日常が戻って来た。
…さて、最近困っている事がある。午後の指南・訓練の時間だ。
試しに竜人体で模擬戦をしてみたところ、加減が出来ずにトールを吹き飛ばしてしまったのだ。
あの一時だけの力かと思ったら、フィーラウルさんが言っていた通り竜人体自体が成長したようだ。角も出ている。
散々シェリーさんと手加減を訓練をしたのに、完全に感覚が狂ってしまった。竜人体では模擬戦はやらない方が良さそうだ。
治療を終えたトールに謝り、訓練に戻る。
さて、今後の兵の訓練について考えるか。
先のグランダルとの戦争では、誰一人欠ける事無く戻る事が出来た。魔王城も順調に進んでおり、徐々に持ち帰る素材が増えて来ている。
一番効率が良いのはバランタインさんの所での特訓だが、頻繁に甘える訳にも行かない。
ならば召喚魔法と時空魔法を駆使すれば、同じ事が出来るのでは。そう考えた。
だが時空魔法は兎も角、召喚魔法は扱える者が1人も居ない。俺が知っている限りでも、バランタインさんの他にはフィーラウルさん位だ。
なので物は試しで、シアンに召喚魔法の魔導書を頼んでおいた。4属性と治癒魔法以外は、属性適正は関係無い事が判っている。ならば俺に使えない道理は無いだろう。
そして届いた魔導書を読んでみると、使う人が少ない事に納得した。
時空魔法と同じ弊害、つまり魔力消費が凄まじいのだ。駆け出しの冒険者なら、弱い魔物を1体召喚しただけで魔力切れとなる。戦力にならないのだ。
なので扱うには高い魔力量が求められる。ならば自分は充分に条件を満たすだろう。
その日から午後の指南・訓練では、俺が召喚魔法の訓練をし、召喚された魔物を兵達が倒す流れが出来た。
そして日を追う毎に魔物は強くなって行く。但し制約があり、自らが出会った事のある魔物しか召喚出来ないのだ。イメージの問題だろうか。
徐々に兵達では苦戦するようになって来る。なので小隊長も混ざって倒すようになった。
この頃になると、俺は自分の成長が目に見えるので楽しくなっていた。最初は召喚出来なかった魔物が召喚出来るようになり、次には複数体召喚出来るようになる。
そして今度は、小隊長でも苦戦するような魔物を召喚出来るようになった。なので危なそうなら俺がフォローに入るようにした。
これで対魔物の訓練が捗るようになった。常にフォローに入れる状態なので、多少強めの魔物とも戦わせる事が出来るのだ。
倒せばちゃんと魔素として取り込まれるので、レベル上昇にも貢献する。一石二鳥だ。
そして今日、皆が遠巻きにする中で俺は召喚魔法を唱える。現れたのは緑色で半透明、不定形の存在。精霊だ。
流石に皆に相手をさせる訳にも行かないので、俺が一刀で切り伏せる。
これで魔導書に載っている魔物は、未見の者を除き全て召喚出来るようになった。
これで訓練も充実すると思った矢先、ケビンさんから連絡が届いた。
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