第102話
朦朧とした身体を何とか立ち上げる。
俺の魔力機関にある竜玉から、魔力が溢れ出て来る。
これまで毎日24時間、絶えず身体強化を維持して来た。この魔力も身体強化に回そう。
魔力を制御し、身体に循環させる。何故か普段よりも多量の魔力だが、制御は可能だ。
頭部に何か違和感があるが、気にしている余裕は無い。奴を視界に納める。
頭は少しクラクラするが、身体は未だ動く。軽い怪我なら自然治癒するだろう。
奴は徐々に近づいて来る。だが恐怖は無く、気分が高揚している。
ゆらり、と揺れたかと思うと姿が消える。だが俺はその軌道を目で追っていた。
真横に来た所を一閃。奴の右腕が吹き飛ぶ。
奴に顔は無いが、焦っているように見えた。
俺は間合いを詰める。繰り出される蹴りを躱し、胴を薙ぐ。腹部を深く抉った。
思わず奴は間合いを取り、顔から光線が打ち放たれる。それを俺は拳で打ち払う。
溢れる魔力が力になっているようだ。問題は魔力がどれだけ保つか。
突如背後から放たれる蹴りを手で受け止め、逃げられない状態で斬撃を繰り出す。
胴を切り落とされた状態でも動き続けており、光線を幾条も放ち始めた。
俺は光線を躱しながら間合いを詰め、カタナを一閃。首を切り落とした。
これでも動くならどうしようかと思ったが、ぴくりとも動かないようだ。
「…倒せたのか?」
「はい。大丈夫なようです」
俺はフィーラウルさんからの問いに答え、皆の所に近付く。
「こちらへ。怪我の治療をします」
リリアさんに勧められ、大人しく治療を受ける事にした。
「…これは?」
すると何かが気になったようだ。
「何がありましたか?」
「えっと、角、でしょうか?」
言われて頭を触ると、2つ硬い物体が飛び出ている。後ろ向きに伸びるそれは、確かに角のようだった。
「ふむ、切欠は判らぬが竜人体が成長したのだろう。魔力が爆発的に増しておる。今まで角が見えなかったのは、元の竜が幼体だったからであろう」
「…はい、治療は終わりましたよ」
「有難う御座います」
さて。俺は階段を見やる。
「…行くか。気を付けよ」
「はい。行ってきます」
俺はそう言いエレベーターを出て、階段を登り始める。壁も手摺りも無いので少し怖いが。
そうして暫く登って行くと、終着点が見えた。丁度中央の塔の頂上に辿り着く。
其処には転送陣があった。何処に飛ばされるのか判らないが、此処まで来たのだから行ってみるしか無いだろう。
俺は魔力を流し、転送陣を起動させる。光が俺を包んだ。
次の瞬間、俺は別の場所に移動していた。
およそ20メートル四方の大きさの部屋。床には大理石が綺麗に敷き詰められ、部屋の四隅には立派な柱がそびえ立ち、荘厳な神殿を想起させた。
だが部屋に壁は無く、本来壁がある筈の場所、その先は星一つ無い宇宙のような漆黒の空間が広がっており、上を見上げると、目視できる限り遥か上へと柱が伸びていた。
そう、この世界に転移する前に居た空間だ。ならばと周囲を見渡す。
「…此処ですよ」
背後を振り返ると、純白の衣を纏った女性が居た。見忘れる筈が無い。女神エフィールだ。
「転移者である事を考慮しても、過去最速での到達です。お見事でした、紬原 侑人さん」
俺が警戒していると、彼女は顔を緩めて語り始めた。
「此処に辿り着いた者には、望む力を与えます。ですがその前に、少しお話をしましょうか」
「話、ですか。…聖都を破壊したのは誰ですか?」
「かつて此処に辿り着いた者の1人です。恨みを晴らすため、全てを蹂躙する炎の力を望みました」
「魔力が満ちている理由は?」
「私がアライアに魔力を供給する、経路になっているからです」
「望む力とは、何でもですか?」
「はい。但し注意して欲しいのですが、強大な破壊の力を望んだ者は、洩れなく自滅の道を辿りました」
俺はどんな能力を必要としているのか。少なくとも破壊の力では無い。
…そう言えば、残りの転移者の行方について気になっていた。不遇な状態なら助けてやりたいと思う。
「…探し人を見付ける力とか、ありますか?」
「それが望みなのですね。では失礼」
そう言うと手を俺の右目に翳す。突如光が視界を覆い、痛みが走る。
やがて光が消えると、女神は手鏡をこちらに向けて来た。
顔を除くと、右目に魔方陣が埋まっていた。
「千里眼です。右目に指を添えて魔力を流すと起動します。探したい人や物を頭の中で意識してみて下さい」
俺は言われるままに魔力を流す。すると右目の視界が灰色に染まる。
試しに「転移者」と意識してみる。すると視界に位置と距離が表示された。
あっちは村だから萌美と楓、向こうは王都だからケビンさんと料理人か。周囲をぐるっと見渡すと、残り5人どころかもっと沢山居る事が判る。
「俺達の前の転移者も、存命なんですか?」
「ええ。全員ではありませんが、何名か未だ生きております。一度お会いになるのも良いかも知れませんね」
「そうですか。…もう一度、此処に来る事は?」
「出来ますよ。何度も力を与える事は出来ませんが」
「判りました。もし何か聞きたい事が出来たら、また伺います」
俺はそう言い、その場を立ち去った。
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