第82話

 デルムの街に到着した俺達は、冒険者ギルドへと直行する。

 そして到着し、俺はシアンに告げる。

「此処からは俺1人で大丈夫だ。暫く好きに街を巡ってくれ」

「判りました。頃合いを見てこちらに戻ります。頑張って下さい」

 そう言うとシアンは馬車を出発させる。恐らく観光では無く市場調査などに時間を費やすのだろう。折角息抜きに連れて来たのだから、のんびりして欲しいのだが。

 俺はギルドに入ると、見知った顔の受付へと直行する。

「お久しぶりです、イリノさん」

「あら、ユート様。お久しぶりです。色々と噂は聞いていますよ」

「良い噂なら良いんですが。…これ、ギルドから届いた手紙です」

 俺はそう言い、受け取っていた手紙を渡す。

「確認致しました。こちらへどうぞ」

 イリノさんに案内され、奥の応接室へと向かう。

「それでは、少々お待ち下さい」

 そう言われ暫く待つと、見覚えのある2人が入って来た。

 1人は先日も会った副マスターのフィーリンさん。そしてもう1人は、ギルドマスターのガルファングさんだった。

「久しぶりだな!変わらず壮健そうで何よりだ!」

 そう言って俺の肩をばんばんと叩く。剛毅な性格は相変わらずのようだ。

「先日はお疲れ様でした。途中で帰ってしまいましたが、問題は解決しましたか?」

 そう言うのはフィーリンさんだ。先日の件を言っているのだろう。

「突発の件は無事解決しました。素材の件は、今後の状況次第ですね」

 俺はそう返すと、早速本題を切り出す。

「それで今回の手紙の件ですが、どういう事情ですか?」

「まあそう思うわな。事情の説明を…フィーリン、頼む」

「判りました。…簡潔に言いますと、ユート様にS級になって頂いた方が、こちらにとって都合が良い事情が御座います」

「事情ですか。…依頼のランク制限位しか思い浮かびませんが」

「その通りです。ユート様には近日中にギルドが出す、S級限定の依頼をお受け頂きたいのです」

 以前にイリノさんからの説明で、受けられる依頼は自分のランクまでとあった。事情は分かったが、疑問が残る。俺はその疑問をぶつけた。

「俺へ直接、指名依頼を出せば良かったんじゃないですか?」

「それは出来ません。今回の依頼は公開依頼だからです。なのでランクを指定する必要がありました」

「つまりは、人数が必要だって事だ。お前1人で足りるなら指名でも良かったんだがな」

 成程。それなら指名依頼では対応出来ない。

「そう言う訳でして、複数のS級冒険者に依頼を受けて頂く必要があります。私から見ても、ユート様はS級を名乗るのに充分な実力があると判断しております」

「副マスターが言うんだ、俺もその眼を信じた。だが無条件って訳には行かねぇんだ」

「それが手紙にもあった試験、ですか」

「そうだ。実力不足の奴に依頼を受けさせたら、死地に送るようなもんだからな。其処は見極める必要があるだろう、って横槍が入ってな」

「…横槍とは随分な言われようだな。正当な意見だと思うが」

 そう言って部屋に入って来たのは、フィーリンさんと似た外見の、初めて見る男性だ。

「聞いてたんですかい、統括」

「聞いていたも何も、扉の前で待たせていたのはお前だろうに。相変わらず粗雑だな、ガルファングよ」

「…統括?」

「おや、挨拶が遅れたな。私はフィーラウル。此処に居るフィーリンの兄で、冒険者ギルド統括を務めている」

「あ、初めまして。ユート=ツムギハラです」

「知っているよ。新進気鋭の貴族様だろう?武勇伝は色々と聞いているよ」

 発言に棘があるが、わざとなのか素なのか判断がつかない。ただガルファングさんとのやり取りを見る限り、素の性格のような気がする。

「私から説明しよう。このギルドから本部へと、お前のS級への昇格申請があった。だが無条件でのS級への昇格はあり得ないと、私が申請を却下した」

「あり得ない、ですか」

「そうだ。今現在、S級冒険者は管轄下で12組存在する。…判るか、『組』だ。単独でのS級昇格者は、現役では存在しない」

「…シェリーさんは?」

「彼女は実力ならS級だが、ギルドに所属したのは騎士団を引退してからだ。受ける依頼も勅命だけだからな、確かA級にも満たない筈だ」

 言われてみれば、冒険者としては本腰を入れていなかった事を思い出す。

「そう言う訳でな。お前の実力を見極める必要があるのだ。部外者は排除した上で、訓練場にて試験を行なう。…理解したか?」

「判りました。宜しくお願いします」

「良し、では移動するか。部外者の排除は任せたぞ」

「了解。ささっと追い出してきますよ」

 そう言い、ガルファングさんが訓練場に向かう。

「では、こちらへお願いします」

 フィーリンさんの案内に従い、俺も付いて行く。


 訓練場に着くと、既にガルファングさん以外は居なくなっていた。

 その中央に、俺とフィーラウルさんが立つ。

「武器は真剣で構わん。魔法も好きなように使え。私は防御に徹するから、思う存分掛かって来い」

 俺がカタナを構えると同時、フィーラウルさんの魔法が発動する。

「氷結晶結界陣(プリズム・ゾーン)、轟雷防護風旋(ヴォルテック・ガード)、獄炎縛鎖遮陣(ヘル・チェイン)、石柱防壁円陣(ストーン・ウォールサークル)」

 氷、風雷、炎、石の多重障壁が互いの空間を阻む。


 その障壁の向こうで、フィーラウルさんは不敵に笑っていた。

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