第83話
多重・多属性の結界がフィーラウルさんを包んでいる。
俺はまず、魔法を放って防護を削る事にした。
「轟風竜巻陣(テンペスト・ストーム)!」
威力を上げるため、両手で同時に魔法を放った。
竜巻は通常より巨大になり、フィーラウルさんを結界ごと巻き込む。だが見る限り、効果は薄いようだ。やはり最上級魔法でないと対抗出来ないか。
止む無く接近し、カタナで結界を破る事にする。ファルナと戦った際に、思った程結界の抵抗は無かった事を思い出す。
ならばと、剣速を重視して連撃を加える。
甲高い音を立てて、目の前の結界がどんどん崩れて行く。だが効果があるのは氷と石の障壁だけで、固形の物質でない炎と風雷には剣戟は効果が無かった。
「轟雷風旋陣(ヴォルテック・ストーム)!」
穴の開いた箇所に、再度魔法を叩き込む。今度は効果があり、炎と風雷の障壁が弱まった。
「ふむ…。魔法の威力、剣戟共にS級として申し分ない。…だが」
フィーラウルさんがそう言うと、突如障壁が砕け消える。自ら消したようだ。
彼は俺の方を見て、更に続ける。
「実力を隠しているな。その程度では精霊は倒せぬからな。ならば追い込んでみようか。…出でよ」
その言葉と共に、半透明の狼のような姿をした「何か」が現れる。身体を見る限り精霊に似ているが、精霊は人型の筈だ。
「統括、そりゃやり過ぎだ!」
ガルファングさんの叫びが響く。ヤバい相手なのか、これ。
「これは私が生み出した、人工神霊だ。本物には及ばぬが、精霊を上回る実力はある。…さあ、どうする?」
それならば。俺は躊躇わず竜人体を発動する。
「…霊装か?いや、竜人体か。人族でありながら竜人に成るとはな。良いぞ!その実力を見せてみよ!」
フィーラウルさんが歓喜の声を挙げる。まるでマッドサイエンティストのようだ。
俺はまず様子見で、遠距離から魔法を放つ。
「獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!」
「************!!」
以前の精霊も発した、聞き取れない叫び声。それと共に無数の氷の槍が降り注ぐ。俺の魔法は無視して来たか。
「獄炎縛鎖遮陣(ヘル・チェイン)!」
炎の鎖が俺の周囲を囲む。それでも隙間から飛び込んで来る氷の槍は、カタナで弾き、躱す。
見やると、相手は魔法を放つ前と同様に佇んでいる。やはり精霊と同様に、魔法は効果が薄いようだ。
ならばと接近戦を仕掛ける。間合いを詰め、顔面に向け一閃。
その一撃を屈んで躱し、爪の一撃を振り上げて来る。俺はギリギリで横に躱した。
ならばと、隙を与えず連撃を加える。
その攻撃を躱し、爪で弾く。幾らかは身体に傷を与えたが、浅く致命傷には程遠い。
俺は間合いを取り直し、様子を伺う。
距離を空ければ魔法攻撃、距離を詰めればあの身のこなし。隙が無い。ならば体力が続くまで連撃を加えるか。
…物は試しと、俺は不慣れな魔法を放つ。
「遅速鎖(スロウ・チェイン)!」
半透明の鎖が相手を絡め捕る。
「ほう、時空属性とは珍しいな。お前の膨大な魔力なら有効だろう」
フィーラウルさんが感心している。
そう。楓では魔力が続かなかったが、俺なら長時間持続させる事が出来る。碌に練習していない魔法だったが、効果はあったようだ。
俺は再度間合いを詰め、連撃を加える。
目に見えて相手の動きが鈍い。魔法に込めている魔力量が、そのまま阻害の度合いになるようだ。目測で半分程度になっている。
先程と違い、連撃の殆どが相手を直撃する。魔素の密度が増大なので抵抗は大きいが、着実に相手を削っている。
この作戦に欠点があるとすれば、魔法を放てない所だろうか。新たに魔法を唱えると、時空魔法の維持が切れてしまうのだ。
なので先程検討した作戦通り、連撃で押し通す。
時折合間を狙って攻撃が来るが、容易に躱せる速度だ。魔力さえあれば、時空魔法は強力だという事を実感する。
そして魔力も体力も限界に近付いていると実感した頃、相手が片膝を付く。
「ここだ!!」
俺はその下がった頭部に、カタナで思い切り突く。
「############!?」
断末魔のように謎の奇声を発し、相手は横倒しに倒れた。
俺がカタナを杖にして息を整えていると、軽い拍手が響く。
「見事だ。善戦に留まらず、倒してしまうとはな。最大戦力とは良く言ったものだ。…合格だ。妹よ、手続きは任せた」
「畏まりました。では失礼します」
そう言い、フィーリンさんが建物の方へ戻って行く。
するとフィーラウルさんが近付いて来て、手を差し出して来た。
「無理をさせて申し訳無かった。この目で確かめねばならなかったのでな。これからもギルド、そしてこの国の為に尽力を願う」
俺は手を握り返した。
「こちらこそ、良い経験をさせて貰いました。…あれは召喚魔法ですか?」
「そうだ。其処に私の研究を加え、あれを生み出した。他にも色々あるからな、次の機会にでも披露しよう」
「それは是非。楽しみにしています」
そんな俺達の姿を、ガルファングさんは呆然と見ていた。
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