第93話

 先程まで居た戦場の惨状を見ながら、俺達は腰を下ろし息を整えていた。

 何とか自分の部下達は守り切ったが、味方には被害が出ていた。正教国との争いでは味方の被害を出さなかった分、ショックは大きかった。

 すると馬に乗った伝令が周囲に呼び掛けを行なっていた。

「これより本陣にて緊急の軍議を行ないます!爵位持ちの方はご参集下さい!」

 俺は立ち上がり、皆に指示を出す。

「もう夕方だ。恐らく敵の進軍はもう無いと思うが、警戒しつつしっかり休憩を取っていてくれ」

 頷く皆を確認し、俺はシャルトーさんに一言確認した後、本陣に向かう。

 向かった先では既に大勢の人が集まっていた。その中心には国王様とフィーラウルさん、それに第1騎士団長のメイヤさんが居た。

 国王様が最初に口を開いた。

「それで、被害状況は?」

「はっ。詳細は確認中ですが、兵士がおよそ160名、冒険者が4名死亡しました。そしてほぼ同数の負傷者が居ますが、こちらは治癒魔法にて治療中です」

 メイヤさんが被害状況を答える。

「撤退に徹してその被害か…。フィーラウル殿、あの砲撃の中を進軍した場合、どの程度の被害が出ると見る?」

「砲弾は弧を描く軌道の為、最上級魔法を扱える魔導士は満遍なく配置する必要があります。ですが、兵士を全て守れるだけの魔導士は居りません。また途中で魔力切れとなる者も出ましょう。良くて半壊でしょうな」

「そうか…、絶望的だな。敵の進軍を待つのはどうか?」

「恐らく大砲は移動式でしょう。射程に入り次第砲撃を受けます。そのまま損耗しつつ前線が押され、敗北に至るでしょう」

 進むも地獄、留まるのも地獄とは。下がっても結果は同じだろう。

 すると国王様の目線が俺に向いた。

「ユートよ。転移者としての知見ではどう見る?」

 俺は問われ、正直に答えた。

「上がった煙と魔法とは違う轟音から、大砲は恐らく魔法では無く火薬を使用しております。なので雨でも降れば使用出来なくなるとは思われますが…」

「成程な。雨乞いをするには季節が悪いな。望みは薄いであろう」

 そう。今は乾季だ。それを狙っての進軍なのだろう。

「…ケビンよ」

 国王様の呼び掛けに、背後にケビンさんが現れる。

「お呼びでしょうか」

「敵陣に潜入し、大砲を破壊する事は可能か?」

「まず1つ。見付からないよう森林か山岳を通りますので、敵陣に辿り着くまでに時間が掛かり過ぎます。そして2つ。砲台自体は強固なので火薬を爆発させる事になりますが、潜入した者は確実に爆発に巻き込まれます。…命令とあれば実行しますが」

「そうか、それは最後の手段としよう。…他に何か策のある者は?」

 国王様の呼び掛けに、俺は手を挙げる。

「ユートよ、どのような策が?」

「はい。今は私の元に、水竜王様の部下が居ります。なので竜に乗り迂回して敵陣に接近、火属性魔法にて火薬を爆破する方法は如何でしょうか」

「成程。ケビンの懸念を解決する策か。皆の者、如何か?」

 国王様の問い掛けに、特に異論は出なかった。

「良し。ではユートの策を採用する。何か必要な物はあるか?」

「では、まず夜間に決行しますので、夜目の効く方を1名。あとは攻防に優れた、火属性を扱える魔導士を1名お願いします」

「そうか。我こそはという者は居るか?」

 するとケビンさんが手を挙げた。

「私の恩寵でしたら、昼夜問わず地形を含め索敵可能です。砲台も発見可能かと」

「そうか。ではケビンが同行せよ。さて、魔導士はどうだ?」

「ならば私が。ユート殿とは知った中なのでな」

 そう言い手を挙げたのは、フィーラウルさんだった。

「そなたは総指揮の役目もある。大丈夫か?」

「この策を成功させねば、指揮も意味を成さないでしょう。安心なされよ」

「…判った。必ず戻るのだぞ」

 国王様の一言により、策の実行が決定した。

「では夜間に決行とする。時間になったらこの本陣へ参集せよ。では解散!」

 俺は早速仲間の所へ戻り、シャルトーさんに声を掛ける。

「先刻の件、実行が決定しました。危険な任務ですが、ご協力お願いします」

「何、折角の恩返しの機会だ。しっかり頑張らせて貰おう」

「有難う御座います。では夜間決行ですので、それまで休んで下さい」

 俺はそう言い、自分も休憩する。食事を食べ、仮眠を取った。


 夜も更けた頃、本陣に俺とシャルトーさんは向かった。其処には既にケビンさんとフィーラウルさんが居た。

「じゃあシャルトーさん、お願いします」

「ああ」

 すると身体が水色に光り、竜の姿に戻った。

「ケビンさんは前に、フィーラウルさんは後ろに乗って下さい。シャルトーさん、森の方を通って敵陣に接近して下さい」

「了解した。飛行速度はどうする?」

「森では最速で、近付いたら速度を落として下さい」


 そうして、3人を乗せてシャルトーさんが空に飛び立った。

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