第94話

 漆黒の夜空を、水色の竜が物凄い速度で飛行している。眼下の森がどんどんと流れて行く。俺は風圧を相殺する為、風魔法を発動し続けていた。

「竜に乗るのは初めてだが…これは凄いな。得難い体験だ」

 フィーラウルさんが満足そうな表情で呟く。

 俺はケビンさんに問い掛けた。

「索敵ですが、どの程度まで近付けば可能ですか?」

「私の恩寵は消費魔力に比例します。一瞬で構わなければ山向こうまで可能ですが、暫く維持するのでしたら、300メートル程でしょうか」

「判りました。大砲と、その近くにある筈の砲弾と火薬を探して下さい」

「お任せ下さい」

 そして俺は、フィーラウルさんにも告げる。

「最初は火属性魔法で私と一緒に地上を攻撃、敵の反撃が始まりましたら、防護魔法をお願いします」

「承知した。任せるが良い」

 話をしている間に、煙の見えた辺りまで近付いて来たようだ。

「シャルトーさん、空中で停止できますか?」

「ええ、大丈夫です。…この辺りですね?」

「はい。…ケビンさん、お願いします」

「はい。では…」

 そう言うと、目を閉じ集中し始める。そして魔力が薄く広がって行く感覚。

 ケビンさんは息を一度吐くと、告げた。

「距離100メートル、1時の方向、大砲と思われる構造体が10。周囲に物資と人間を複数感知」

 1時という事は、右に15度か。俺は位置を目測し、告げる。

「今から魔法を放ちます。フィーラウルさんはその周辺へ攻撃を」

「何時でも良いぞ」

「では。…獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!」

 ケビンさんの示した位置へ、俺は魔法を放つ。

 炎の螺旋が着弾し、直後に起きる爆発。一気に辺りが赤く照らされる。

「獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)!」

 フィーラウルさんの同時魔法が放たれる。そして周囲に爆炎が生じる。

 すると火薬に誘爆したのか、黒煙を生じた爆発が起こる。

「最初の着弾点の周囲に攻撃を!」

 ケビンさんの指示を受け、更に2人で魔法を放つ。

 最早空は黒煙で覆われていた。だがその時、風を切る音が耳を掠める。

「防護風旋(エアリアル・ガード)!」

 フィーラウルさんの魔法により矢が弾かれる。気付かれたか。

「残り2、距離150メートル、2時の方向です!」

「獄炎螺旋撃陣(ヘル・スパイラル)!」

 狙いは違わず、誘爆により大爆発を起こす。

「ターゲット撃破!地上より魔導士の魔法反応!」

「氷結晶結界陣(プリズム・ゾーン)!」

 ケビンさんの報告に遅れる事無く、フィーラウルさんの防護魔法が発動する。

 直後、眼下に展開された防護魔法が削られる音が響く。

「シャルトーさん、このまま反転し撤退!」

「承知です!」

 シャルトーさんは急旋回し、全速力でその場を離れる。こうなれば竜の飛行速度に追い着く手段は無い。

 俺は再度風魔法を展開し、一息つく。

「はー、何とか成功ですかね」

「そうですね。ただ砲台そのものが、どの程度破壊出来たかは判りません。もし無事な場合、後方から砲弾と火薬を運び込めば使用可能でしょう」

「ならば進軍は早い方が有利か」

「そうなりますね。立て直す時間を与えるのは、得策ではありません」

「流石に夜が明けねば、こちらの進軍も儘ならぬからな。…ならば早朝だな。戻り次第、国王様に進言しよう」

 そうして無事に本陣に戻って来た。後の事はフィーラウルさんに任せ、俺とシャルトーさんは仲間の元へ戻る。

 すると皆起きていたので、報告をする。

「作戦は無事成功した。明日の早朝に進軍開始の予定だ。まだ時間はあるから、しっかり休んでくれ」

 その言葉に皆は安堵し、テントに潜る。

 それを見届けて俺も自分のテントに入る。するとアルト、アンバーさん、萌美が居た。

「お疲れ様。じゃあ寝ましょうか」

 そう言い、アルトが布団を被る。

「…窮屈じゃないか?」

「…夫婦だから、同衾は当たり前」

 アンバーさんは、さも当然とばかりに言う。

「まあ…今は竜人体だからな、寝るしか無いんだが」

「え…その姿のユート様に、ご奉仕を!?」

 萌美は最近、アンバーさんに毒されている気がする。

「そんな気は無いから、さっさと寝てくれ」

 俺は萌美の頭を撫で、布団に入る。


 そして明け方。起床のラッパが本陣に響いた。

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