第92話
王都にて結婚披露パーティを行なってからきっかり10日後、隣国グランダルより宣戦布告が行われた。
それに従い、王国内にて各貴族に参陣の勅命が下り、国境近くに集まる事となった。
グランダルとの国境は、東部に森林、西部に山岳が連なっており、丁度切れ目にある街道から進軍してくる。これはグランダルに潜入している王家隠密からの情報だ。
最終的に参集した兵は4千5百。これには騎士団や冒険者も含まれる。
そして陣触れが出される。俺達は左翼1千に組み込まれた。他に冒険者は右翼1千へ、騎士団は中央1千5百へ組み込まれている。後詰1千が本陣で、国王も出陣している。
戦場は街道だが、森林と山岳は思ったより近い距離にある。幅は400メートル程だろうか。
さて、警戒すべきは兵器と実験成功体だ。どちらもどの程度存在するのかは判らず、実際に戦ってみないと判明しないのだ。
特に実験成功体は、迂闊に部下に相手をさせる訳には行かない。なので明らかに動きの違う敵が居たら、複数名で防御に徹するよう指示してある。その間に俺が対処をする予定だ。
暫くすると遠方に動きがあった。此処から敵陣は見えないが、敵兵がこちらへ進軍して来ている。規模からして全軍では無いようだが。
「総員、構え!」
号令が掛かり、全軍に緊張が走る。
進軍して来ている敵兵は、全員が徒歩だ。しかもあまり統一された装備をしていない。何かの混成軍なのだろうか。
敵兵はそのまま真っ直ぐ中央に突撃、戦闘が開始した。
「左翼、敵側面を攻めよ!」
左翼の指揮官に従い、敵側面に回り込む。そして敵兵に攻撃を開始した。
相手も、敵を見付けたとばかりにこちらに襲い掛かって来た。そのまま乱戦になる。
「第1・第2小隊は前へ!魔法小隊は阻害魔法に専念しろ!」
俺は部下に声を掛け、乱戦の真っ只中へ突入する。
迫り来る攻撃をカタナで弾きながら、敵兵1人1人を観察する。
…見付けた。前線で剣を振るう、明らかに動きの違う敵兵。実験成功体だ。
盾で攻撃を受けようとする味方の兵を、その盾ごと叩き切っていた。そして次の一撃が繰り出される前に、俺がその間に割り込む。
「次の獲物は貴様かぁっ!」
乱雑な動きに粗野な口調、囚人を実験体にしているのだろうか。
俺は落ち着いて攻撃を躱し、素早くカタナを一閃。相手の両手が切り落とされる。
そして隙だらけの胸部を一突き。地に伏したのを確認し、次を探す。
そのようにして実験成功体を倒していると、戦況は徐々に優勢になって来ていた。
部下も陣形を崩す事無く、順調に敵兵を倒しているようだ。
すると敵軍の後方に、やけに重厚な鎧を着た者が居た。馬上槍を片手で振り、兵に指示を出しているようだ。指揮官だろうか。
俺は戦場を駆け、そいつに切迫する。すると相手も気付いたようで、槍を構えた。
俺に向けて槍が突き出される。予想以上の速さと鋭さに驚きつつ、ギリギリで回避する。
他の実験成功体と動きが違う。洗練されているのだ。
そのまま相手の間合いから、次々と突きが繰り出される。俺は避けつつ様子を伺う。
馬上槍では、間合いを詰められたら終わりだろう。俺はそう考え、次の一撃を避けつつ間合いを詰める。
すると相手はあっさりと槍を手放し、大剣を抜く。判断が早いな。
そして剣戟の打ち合いになる。大剣を相手にすると、シェリーさんを思い出す。力は強いが、技量はシェリーさんの方が上だろう。
俺は連撃を躱し、身を屈めた状態から斜めに切り上げる。そして脇腹を鎧ごと切り裂く。
だがやはり痛覚が鈍っているのか、怯まずに次撃を加えて来る。
ならば一撃で止めを刺す。
相手の振り下ろしの一撃を右に躱し、そのまま側面に回る。そして続く振り抜きの一撃を飛び越し、横に一閃。
ぼとり、と首が落ち、身体がそれに続き倒れる。
さて、俺はこのまま残りの実験成功体を狩る事にした。
後方からそのまま右翼側に回り込む。そして冒険者2人にハルバードで圧倒する敵の首を、後ろから刎ねる。
そのまま苦戦している所を重点に、背後から一撃を見舞う。
そして次に中央に潜り込む。此処では前線を騎士団が抑えていた。
同様に苦戦している所に背後から掛かる。敵の混乱も狙えるのだ。
そうして左翼の、味方の所に戻る。負傷者は居るが、随時萌美が治療しているので問題無さそうだ。
敵兵も大分減ったので、どんどん包囲殲滅して行く。
不思議なのは、既に撤退ラインの損耗をしているのに、その気配が全く無い事だ。捨て駒なのだろうか。
だが撤退しないのなら仕方無い。殲滅するのみだ。
そうして敵の7割方を倒した頃、遠くに煙が数条見えた。
何かと思う間もなくその数秒後、空気を震わす轟音が響いた。
「…砲撃だ!!」
俺は即座に叫んでいた。
「!!…総員撤退!魔導士は防護魔法を展開!」
その声に従い、兵が後退を始める。そして防護魔法が展開される。
その直後、幾つもの巨大な鉄球が飛来し、防護魔法に直撃する。
そして中には防護魔法を突き破り、その下に居た兵達を吹き飛ばす。
「…防護魔法は最上級のみ使用!それ以外は破られるぞ!」
どうやら上級以下の防護魔法では防げないようだ。俺も最後尾で防護魔法を展開する。
轟音と振動が響く中、時に防護魔法の隙間を縫い、敵味方問わず兵を削って行く。
とうとう射程外にまで後退し切った時、百人以上の味方と、敵の先陣全員が地に伏していた。
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