第91話
さて。結婚披露パーティは無事終了した。
正直、延々と来る人に挨拶を返していた記憶しか無い。あとは妻達がドレス姿で綺麗だった事位か。
そしてパーティ終了後は、無礼講で食事タイムだ。護衛をしていた兵達も混ざって料理を楽しむ。
と言うか、料理が驚く程に美味い。聞くと例の転移者の料理人が作ってくれたそうだ。まさか此処までとは。色々段取りをしてくれたニーアさんには、後で改めてお礼を言っておこう。
「お疲れ。無事済んだようで良かったな」
何時の間にか、隣にはクリミル伯爵が居た。
「あ、お疲れ様です。屋敷を使わせて頂き、有難う御座いました」
「気にするな。もう義理とは言え息子なのだ。遠慮は不要だ」
そうか、義理の父親か。…何だか妙な感覚だ。
「今更ですが、お2人を幸せに出来るよう頑張ります」
「其処は心配しておらん。既に3人目が居たのはびっくりしたがな」
「あー、それはまあ、色々ありまして…」
「構わん。元聖女だからな、縁談が引っ切り無しだったのだろう。内に取り込めたのなら強みにもなる。何も間違っておらん」
「そう言って貰えると助かります」
すると伯爵は真剣な表情に変わった。
「開戦だが、恐らく10日後辺りになりそうだ。準備は怠るな」
「大丈夫です。万端で来ていますから」
「そうか。娘達を守るのは当然だが、くれぐれも未亡人にさせるなよ」
「はい勿論。全員生きて帰る事が目標ですから」
「なら良い。それまでは英気を養うが良い。屋敷内は好きに使え」
そう言うと伯爵は去って行った。随分と気を使って貰えているな。
さて、そろそろお開きとなるので、俺は皆に指示を出す。
兵達は兵舎へ。それ以外の者と小隊長は、屋敷に部屋を割り当てられているので各部屋へ。俺も部屋へ行き、服を着替える。やっと一息つけた感じだ。
すると扉がノックされ、妻達3人が入って来た。
「お疲れユート。格好良かったわよ。緊張しっ放しだったけどね」
「それは仕方無いだろ。初の経験だったんだから」
「それもそうね。…ユート、いえ、旦那様。これから末永くお願いします」
アルトがそう言うと、3人とも頭を下げた。
「こちらこそ。…呼び方、変えた方が良いのか?」
「今まで通りで良いわ。さっきのはけじめよ。私も今まで通り、ユートと呼ぶわ」
「…私も」
「あ、私は侑人様、と呼ばせて頂きます」
アルトに続き、アンバーさんと萌美が宣言する。
良かった。「お前」とか「我が妻よ」とか呼ぶ必要が無くて。違和感しか無い。
「で、以前話していた通り、今夜はモエミに譲るわ。しっかりね」
「え、あの、お願いしますっ!」
「…改めてそう言われると、かなり恥ずかしいんだが」
そんな訳で、その日の夜は約束通り萌美の部屋へ。
部屋に入ると、萌美はベッドの上で真っ赤になっていた。
…大丈夫だろうか。無理をしているようにしか見えないが。
俺が近付くと、萌美はびくっと肩を震わす。
…仕方無い。俺は一気に近付き、萌美を抱き締めた。
「へっ、あ、あのっ!?」
「…前に言っただろ?ゆっくりで良いって。無理しなくて良い」
そのまま、萌美の震えが止まるまで抱き締め続ける。
暫くして、落ち着いたのか萌美が口を開く。
「どうしても…2人に並びたくて。同じ妻ですから」
「…そうか」
「それに、戦争が近いですから。どうしても嫌な想像をしてしまいます。ですから、…そんな不安を、掻き消して下さい」
これが萌美の思い、そして覚悟なのだ。ならば俺も受け入れよう。
抱き締めたままベッドに倒れ込み、そのまま組み敷く体勢を取る。
「…痛かったら言ってくれ。苦しませたくは無いから」
「…はい。お願いします」
そうして、お互いの影が重なった。
翌朝、目を覚ます。隣では萌美が静かに寝息を立てている。
起こさないようにそっとベッドを出て、俺は水浴びに向かう。
すると廊下にはアルトが立っていた。俺が起きて来るのを待っていたのだろうか。
「ちゃんと抱いてあげた?」
「ああ。最後まで優しく出来たかは自信が無いが」
「なら良いわ。妻同士での不平等は軋轢を生むから。今後は私が調整するから、安心して」
安心と言うが、これは既に尻に敷かれているのではないだろうか。
まあ女性の事は女性に任せるのが一番だろう。俺が出しゃばっても上手く行くとは思えない。
「ああ、宜しく頼む」
「任されたわ。…じゃあ、私はモエミの様子を見て来るわ」
そう言い廊下を歩いて行くアルトを見送る。
そんな幸せな日々が過ぎ、戦禍が刻々と近付いて来ていた。
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