第119話

 さて、この機にシャルトーさんはこのまま住処に戻って貰い、お付きを含めた3人と一緒に魔王城に向かう事にした。

 お付きの男性に竜に成って貰い、空を飛んで行く。暫くすると火竜王が目を覚ました。事前に聞いた話では、名前をフレミアスと言うそうだ。

 彼は水竜王との決闘が済んでいないとゴネたが、別の八大竜王の元へ案内するという事で納得して貰った。

 案の定、俺に一度負けた程度では彼の態度は変わらないらしい。その未熟さを骨身に沁みさせる必要があるだろう。

 などと考えている間に魔王城に辿り着き、転送陣で最下層へ移動する。

 そしてアイリさんへの挨拶も程々に、バランタインさんの所へと向かった。

 早速扉を開け、俺は口を開いた。

「お久しぶりです。また面倒事を持ち込んでしまいまして、すいません」

「なに、ユートの持ち込む用件は中々に楽しいのでな、良い暇潰しになっておるぞ」

「そうですか、少し安心しました。…こちら、今代の火竜王です」

「ほう…、あ奴も代替わりをしたか。我は八大竜王が一柱、黒竜王バランタインである。名乗るが良い、今代よ」

「…火竜王、フレミアス。八大竜王の頂点に立つ男だ」

 そう答える彼だが、顔色が悪い。貫禄の差が明らかだ。

 するとバランタインさんは不敵に笑った。

「そうか…若さ故の剛毅さか。ならば一度、我と立ち合ってみよ」

「お…おう!やってやろうじゃねえか!」

 そう言えば、バランタインさんが直接戦う姿を見た覚えが無い。基本的に召喚魔法しか使ってないからなぁ。


 …さて、2人の戦いは特筆すべき所も無く、一瞬で終わった。

 意気揚々と飛び掛かるフレミアスだったが、バランタインさんの爪の一撃に反応出来ず壁に打ち付けられた。俺も反応は出来ても躱せたかは判らない。

 またもお付きに介抱されるのを待ちながら、バランタインさんが話し掛けて来た。

「随分と面白い性格をしておるな。今は空回りしているようだが」

「ええ。あの性格を何とかしたいんですが…」

「ならば厳しめに鍛えるとするか。…そうだユートよ、お主が常に壁となるが良い」

「壁、ですか?」

「うむ。八大竜王でも無いお主に負け続ければ、少しは考えも変わるであろう。なので一緒に鍛えてやる。覚悟せよ」

「まあ任せきりは心苦しかったんで、丁度良いですね。頑張らせて頂きます」

「良し。…あの2人はどうする?」

 バランタインさんはそう言い、お付きの2人を指差す。

「甘やかすのも問題ですので、帰って貰いましょうか」

「そうだな。では早速、お主から説明しておけ」

「はい」

 そして2人は今後について説明をし、それならばと納得して貰った。

 2人が部屋を出た頃に、やっと彼が目を覚ました。

「いつつ…。あれ、あいつらは?」

「不要なので帰らせた。これからお主を、八大竜王に相応しくなるまで我が鍛える。覚悟せよ」

「…マジかよ。んで、何でこいつは残ってんだ?」

 彼はそう言い、俺を指差す。

「ユートはお主の壁だ。毎日最後に2人の模擬戦を行なう。其処で成長を確認するが良い」

「…仕方無えな。今は従っておいてやる。だが覚えておけ、次に勝つのは俺だからな!」

 そう啖呵を切る。この性格は特訓ではプラスだろう。

 何より俺自身が、彼に負けないよう更に鍛えなくては。


 それからの特訓は、以前までのものとは違っていた。

 何より召喚する魔物の殺意が高い。明らかに連携してこちらを殺しに掛かって来る。

 フレミアスには普通の魔物だが、俺は今2体の神霊と相対していた。倒せるギリギリでは無く、倒せないギリギリを狙っている。事実、俺は光の塔の最上層の再来を感じていた。

 彼も盛大に吹き飛ばされ、またも壁に打ち付けられているが、気を回している余裕が無い。本当に命懸けだ。

 身体強化を全開にし、時空魔法を使って拮抗する状況だ。他の魔法では牽制にもならない。

 なればこそ、素の技量を磨くしか無い。カタナの振りや返し、身の躱し方などを常に工夫する事が求められる。

 今までは危機に陥っても、竜人体での力押しがある程度通用した。其処で技を磨く事を疎かにしていた事を恥じる。

 良い機会だ、徹底的に自分を鍛えよう。王国では最高戦力などと言われているが、八大竜王には代替わりした2人にしか勝てないし、教主も敵対すれば難敵だ。

 少し目を横に向けると、彼は既にダウンしていた。気絶はするが怪我はしないのだから、身体は丈夫なようだ。

 俺は兎に角現状を打開するため、1体を倒し切る事に専念する。多少の被弾は我慢し、1体に集中する。

 そして暫く後、身体に多数の傷を負いながらも1体を倒す事が出来た。残り1体の攻撃を躱しながら、身体強化の魔力での自己治癒を待つ。

 するとバランタインさんは、更にもう1体の神霊を召喚した。本当に倒れるまで追い込むつもりらしい。

 …それでこそだ。あの初めの頃、日々の成長に喜びを感じていた事を思い出す。

 あの頃はレベルアップによる恩恵を実感していたが、今は戦い方を含めた技術の成長を実感する時だ。

 そう決意し、俺は無傷の2体の神霊に相対する。また1からになるが、先程までよりは上手く戦えるだろう。

 気付くと彼も復活し、戦いを再開していた。まるでライバルのようだ。


 そうして俺達は、更なる特訓に身を投じた。

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