第169話

「ふむ、中々良い村ではないか。領主の努力が垣間見えるぞ」

 俺達の村には、何故かスターレンさんが訪れていた。

 先日会った時は竜人体だったので、一先ず初対面として振舞おうと思ったのだが。

「む…?その魔力量はユーナ殿だな、それが本来の姿であるか。…安心したまえ。少女の姿が内にある限り、私にとっては守るべき対象だ」

 などと爽やかに宣言された。何で魔力量だけで正体が判るのか、など突っ込み所が多いのだが。

 取り敢えず俺は正式に名乗り、歓迎の意を示した。アイリさんを見逃してくれた恩もあるので、まあ妥当だろう。

 そして折角なので、俺の方から提案し訓練に参加して貰う事となった。正直、実力の程を知りたかったのが一番の理由だ。

 魔王城の魔物は1人で容易に倒していたので、それより強い魔物を次々と召喚する。それを彼は全て一刀で斬り伏せて行った。

「面白い訓練をしているな。実戦とレベル上げを領内で兼ねるか。見事なものだ」

 随分と余裕が見えるので、思い切って精霊を召喚する。俺の知る限り、竜族を除き対抗出来るのはフィーラウルさんと教主だけだ。

 彼は真剣な表情で精霊と相対する。

「はぁっ!」

 一息で間合いを詰めつつ剣を振るうが、躱され表面を浅く薙いだ。

 お返しとばかりに魔法が放たれ、幾重もの爆発が彼を襲う。だが彼は怯む事無く、更に間合いを詰めて行った。

「私の背後に少女の姿ある限り、倒れる事は無い!」

 只の気合いなのか、それとも何らかの力が働いているのか。良く判らないが、彼はほぼ無傷だった。

 そして精霊を頭から唐竹割りにする。予想外にあっさりと倒してしまい、俺は驚きを隠せなかった。

 周囲からは歓声が挙がる。精霊の強さは皆も知っており、それを単独で倒す実力を実感したようだ。

 その後は興味本位で神霊とも戦って貰ったが、流石に彼が勝つ事は出来なかった。だが善戦していたので、近い内にその域に至るのでは、と思わされた。


 そんな日の夜。俺はアルトに言われ、大人しく自分の部屋に居た。

 するとノックと共にドアが開かれ、八重樫さんが部屋に入って来た。夜なので寝間着姿だが、何か相談だろうか。

 彼女は何故か身体強化の魔力を全開にし、一気に間合いを詰めて来た。俺は突然の事に反応出来ず、そのままベッドに押し倒された。

 …これはどういう状況だ?疑問符が頭の中を駆け巡る。

「…アルト様には承諾を得ました。早速ですが、竜人体に成って下さい」

「…え、何で?」

「それが必要な事だから、です」

 説明になっていないが、その圧に負けて竜人体に成る。服はそのままだ。

 すると彼女の目が輝く。そしていきなり口を唇で塞がれた。

「好きになってしまいました。…普段の侑人さんもですが、訓練で見せたその凛々しくも愛らしい姿を」

 そう告げる彼女の息が荒い。顔は上気していた。

 俺は更に頭が混乱する。俺を好きだと言ってくれているのは判った。だが、この姿を?

 そのまま彼女の手が、俺の身体をまさぐり始める。くすぐったい。

 俺は思考が纏まらず、されるがままになっていた。その間にも彼女の行為はエスカレートして行く。

 髪の匂いを嗅がれ、耳を舐められ、太腿を触られる。歯止めが利かなくなったのか、彼女の興奮は最高潮に達していた。

 俺は何とか思考を紡ぎ、1つの結論を導いた。

 アルトが一枚噛んでいるのだ、妻として受け入れろという事なのだろう。この性癖を知っていたのかは判らないが。

 俺は半ば諦めの境地で、天井のシミを数えていた。


 窓から朝陽が差し込み、目の奥を刺激する。

 俺は上半身を起こし、昨夜の記憶を探る。

 結局、彼女が満足するまで俺は攻められ続けた。新たな扉が開いた気もするが、気のせいだろう。そう自分に言い聞かせる。

 その後、俺は竜人体を解いて攻めに転じた。それまでの行為の反動もあり、若干乱暴だったかも知れない。だが彼女は喜んで受け入れてくれた。

 …これまでのパターンから想像するに、扉を開くと結果を聞かれるのだろう。

 俺は服を着て廊下に出る。予想通り、其処にはアルトが居た。

「…どうだった?」

「予想外の性癖に混乱した。知ってて送り出したのか?」

「そうよ。愛の形は人それぞれ、受け入れる度量が必要だわ」

「何の心構えも出来ずに受け入れた、俺の気持ちも考えてくれ…」

「でも良い子よ。って、年上に言う言葉では無いけど。ちゃんと全員了承してるわ」

 いつも通り、俺以外への根回しは完了しているようだ。

 俺は溜息を付きつつも、アルトの頭に手を優しく乗せる。

「じゃあ、いつも通り連絡は頼む」

「任せておいて。ユートは今日の訓練の時に皆に報告、ね」

 そう告げるとアルトは部屋に戻って行った。俺の第一婦人は、年下のくせに頼もしかった。

 俺は風呂に向かい水を思い切り被る。さっぱりして部屋に戻ると、八重樫さんが起きていた。

 俺に気付くと顔を真っ赤にし、目を背ける。昨夜の事を思い出しているのだろうか。

 俺は正面から彼女を抱き締め、そっと囁く。

「これから宜しくな、桃華」

 鼓動が胸を通して響く。彼女は少々ぎこちなく頷いた。


 皆への報告時は冷やかされるのだろうかと思いながら、この瞬間を噛み締めた。

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