第124話

 俺は幻竜王に尋ねた。

「何故殺す事が、強い竜王を生み出す事になる?」

「今は廃れたがな、竜種は自らの竜玉を糧にして、単独で子を成す事が出来るのだ。今代が殺されれば、先代は命と引き換えにその選択をするだろう。竜王不在の空白の期間を生まぬ為にな」

「…お前自身はどうなんだ?」

「私は貴き方に選ばれし代行者だ。貴様らとは違うのだよ」

 対象が何人かは判らないが、少なくとも此処に居る2人は殺す対象のようだ。そうなると、ファルナも確実に対象だろう。

 俺はフレミアスに小声で呟く。

「2人でファルナ…水竜王の所に向かい、一緒にバランタインさんの所に匿って貰え。此処は俺が何とかする」

「は?俺に逃げろってのかよ!?」

「俺が勝てないようなら、お前も確実に殺される。そうなりゃ相手の思う壺だ。今は情報が足りないんだ」

「ちっ…判ったよ。んじゃ行くぞ、俺に付いて来い」

「あ…ああ」

 風竜王も理解が追い付いていないようだが、一先ず従ってくれるようだ。

「じゃあ俺が奴に突っ込むから、それに合わせて逃げてくれ」

 俺はそう言うと、カタナを抜く。

「相談は終わったか?なら大人しくその命を捧げよ」

「そうは…させない!」

 俺は一気に間合いを詰める。だが。

「幻惑投影(ファントム・ビジョン)」

 相手が魔法を放つと、その姿が掻き消える。俺の剣戟は空を斬った。

 気配感知ではその位置は変化していない。恐らく視覚が歪められ、見当違いの場所を攻撃しているのだろう。

 ならばと、俺は千里眼を発動する。対象は幻竜王だ。

 すると気配とは違う位置に居る事が判る。俺は直ぐに距離を詰め、カタナを振る。

 キィン、という甲高い音が響き、同時にその姿が露わになる。どうやら短剣で防がれたようだ。

「八大竜王でも無いのに、この強さは何だ?お前が火竜王なら、何も問題無かっただろうに」

「生憎、こう見えて火竜族じゃないんでね」

 ふと横を見ると、既に2人は外に出たようだ。

「ならば混血種か?そうは見えんが…まあ良い。邪魔するなら排除するのみだ」

 幻竜の扱う魔法は時空魔法のようだ。ならば阻害・搦め手が中心になるだろう。力押しでは防げないので不安が残る。

 ならば対象を分散させる為、俺は召喚魔法を唱える。

 そして現れたのは2体の神霊だ。その2体は相手に襲い掛かる。

「よもや召喚魔法とは。確かに火竜族では無さそうだな」

 攻撃を躱しながら相手が呟く。その表情には未だ余裕が見える。

「範囲遅速鎖(エリア・スロウチェイン)」

 そして魔法が放たれ、俺と2体の神霊の動きが鈍る。やはり使って来たか。俺も得意とする戦法だ。

「時流加速(クロノス・アクセル)!」

 俺は時空魔法を自身に唱え、鈍らされた動きを相殺する。

 その間に神霊の1体が倒されるが、構わず間合いを詰める。

 そして繰り出す連撃を、相手は短剣で防ぎ、受け流す。だが少し辛そうだ。近接戦ならこちらに分があるか。

 ならばと俺はそのまま連撃を続ける。もし相手が別の魔法を使えば、そのタイミングで阻害魔法が切れる事になる。そうすれば俺の方が速度で確実に上回る。

 すると相手の手に波紋が浮かぶ。フレミアスの炎の拳と同様、種族特有の力か。

 不意に首筋に気配を察知し、横に飛び退く。すると其処には空間から短剣を持った手が浮かんでいた。

 相手を見ると、手から先が消えている。部位の空間移動か。これで俺の死角を突くつもりらしい。

 ならば俺の取れる選択肢は少ない。兎に角接近戦に持ち込み、気配感知に頼るしか無い。距離を空けても、一方的に攻撃されるだけだ。

 残り1体の神霊を相手取っている隙に接近し、再度連撃を加える。

 俺の攻撃の方が危険と判断したのか、神霊の攻撃を無視し始めた。

「ちぃっ」

 相手の舌打ちが聞こえる。神霊は攻撃のバリエーションは少ないが、その力は油断ならない。充分な痛手のようだ。

 それならば。俺は一度阻害魔法の相殺を止め、召喚魔法を唱える。

 現れたのは虹色の人型…光の塔で遭遇した神霊だ。

 そして再度時空魔法を唱え阻害魔法を相殺し、一緒に接近する。

 人型の精霊が不規則な蹴りを放ち、俺はカタナで連撃を加える。

 こちらの攻撃が飽和し、相手が防ぎ切れなくなって来た。どんどんその身体に傷が刻まれ、血が流れ落ちる。

「油断したか。…まさかこれ程とはな!」

 すると身体が一気に軽くなる。阻害魔法の魔力供給を止めたようだ。

 だがこの性格からすると、諦めたとは思えない。まだ何か仕掛けて来るだろう。

 すると相手は大きく飛び退き、魔法を唱えた。

「次元移動陣(ディメンション・ムーブ)」

 その姿が掻き消え、気配が離れる。逃げに転じられたようだ。

 そしてこれも時空魔法なのか、耳元に声が響く。


「今回は私の負けのようだ。だが次はこうは行かぬ。覚悟しておけ」

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