第123話

 さて、2人の戦いはどうなったのかと言うと。

「ううっ…ぐすっ」

「…どうしろってんだよ、これ」

 風竜王は泣き、フレミアスは困惑していた。

 結局勝敗はフレミアスの勝ちだったのだが、その直後がこの光景である。

 尊厳と礼節は見る影も無かった。

「なあユート…、どうすりゃいい?」

「どうって…。まあ女性を慰めるのは男の役目だと思って、頑張れ」

「何だそりゃ…。ああもう、いい加減泣き止めよ」

 俺は何とか慰めようとする彼を見ながら、先程の戦いを思い出していた。

 彼女は何度も魔法を放ったが、その悉くを彼は避けずに突撃。そしてその度に拳を叩き込んでいた。

 そして幾度目かの拳にとうとう崩れ落ち、勝敗が決したのだ。

 なお女性にも容赦無いように見えたが、結局最後まで顔は殴らなかった。

 まあ暫くすれば彼女も落ち着くだろう。それよりもこの状況を衆目に晒す方が可哀そうだ。

 俺は観衆に解散を呼び掛ける。すると皆一応納得し、散開して行った。

 閑散とした闘技場で、鼻をすする音だけが響いていた。


 彼の努力が実ったのかは判らないが、やっと彼女が泣き止んだ。

「みっともない所を見せてしまい、申し訳無かった」

 彼女はそう言い、頭を下げる。目尻はまだ赤いが、落ち着いたようだ。

「んじゃ気になってる事を聞きたいんだが、良いか?」

 早速とばかりに彼が口を開く。

「ああ、何でも聞いてくれ」

「じゃあ聞くが、何で俺が八大竜王の頂点に立とうとしている事を知っていた?此処と水竜王の所でしか言ってない筈なんだが」

「それは…ある者から話を聞いたのだ」

「それは誰だ?」

 彼がそう尋ねると、彼女の表情がどんどん困惑して行く。

「何故だ…?面と向かって話した筈なのだ。なのに顔も名前も思い出せない」

「おいおい、物忘れか?」

「いや違う。まるで記憶が阻害されているようだ…」

 何やらきな臭くなってきた。誰かの悪意が関与しているのか?

「まあ思い出せないのなら仕方無え。じゃあ何て言われた?」

「それは…今代の火竜王が八大竜王の頂点を狙っている事と、最も清廉な風竜王こそが竜族間の秩序を保つべきだ、と」

「扇動か…?」

 俺は思わず呟いていた。明らかに火竜王に嗾ける意図がある。だが、そんな事をして誰が得をするのか。

「何だよ、他にも頂点を狙っている奴が居るのか?」

 彼のその言葉を聞いて、何となく察する。共倒れ、又はお互いの弱体化を狙ったのではないか。

 そうすると、1つの可能性が思い浮かぶ。

 俺は魔力全開で気配感知を発動した。観衆は居なくなったので、近くには俺を含め3人しか居ない筈だ。

 だが闘技場の入口、その脇に1つ気配がある。

 俺は其処に向け、魔法を放つ。

「獄炎轟爆砕陣(ヘル・バースト)!」

 気配を感じた場所を中心に、爆発が周囲を包む。

 そして煙が風に流された後には、ローブを着た男が1人立っていた。

「何だあいつは?」

「恐らくは今回の黒幕で、彼女を扇動したと思われる相手だ」

 俺の言葉に、彼女がはっとした表情を浮かべる。

 その男が口を開く。

「姿は消していたが…気配を探られたか。粗雑な火竜族とは思えんな」

 そう言うと、こちらに近付いて来る。そしてローブのフードを捲った。

「お前は…!」

「やっと思い出したか。風竜王も他愛無い。成りたての火竜王にも勝てぬとはな」

 髪は銀髪、そして竜族特有の角が生えている。

「幻竜王…!」

 彼女がそう呟く。

「お前が勝ち、愉悦に浸って油断している所を殺し、その後で弱った火竜王も討つつもりだったのだがな…。全く、手間の掛かる」

「手前が諸悪の根源か。何が目的だ?」

 彼がそう言うと、男はにやりと笑った。

「ならば教えてやろう、どうせ直ぐに死ぬのだからな。…ここ最近で八大竜王の代替わりが続き、相対的に弱体化したのだ」

 そして天に向け指を差し、続けた。


「貴き方の命により、八大竜王の淘汰が始まったのだ。弱き竜王を殺し、強き竜王を生み出す為にな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る