第122話
俺は事の顛末を確認する為、フレミアスに付いて行く事にした。
竜となった背に乗り辿り着いたのは、山の中腹にある遺跡だった。
人間がやって来たと動揺させないように、との指示に従い、俺も竜人体に成って中に入る。
遺跡の住居部分に住まう姿を見る限り、水竜の一族よりも生活水準が人間寄りに感じる。
さて、彼の歩く姿に皆が頭を下げるが、その表情にはそれぞれ複雑な物が見受けられる。
以前の彼の態度を思い起こせば、あれを此処でもやっていたのだろう。やはり実力と実績の裏付けによって自然と周囲から尊敬されるのだ。それを強制されては周囲の心も離れてしまうだろう。
まあ、これから彼自身が信頼を取り戻すのだ。俺は口出ししないでおこう。
そうして奥に進んで行くと、徐々に騒がしくなって来る。何やらトラブルが起きているようだ。
奥は玉座の間のようになっており、其処に何人かが集まっている。
その中で目立つのは、緑色の髪。火竜の一族は全て赤髪なのだ。
「どうした、何があった!?」
フレミアスが声を掛けると、緑髪を囲んでいた者達が離れる。
緑髪は女性だった。だがその目付きは鋭く、こちらを睨んで来る。
「…お前が火竜王か?」
その口調には怒りが籠っている。何か恨みでもあるのか。
「そうだが、お前こそ何者だ?」
「私は風竜王。貴様の性根を叩き直しに来た」
「それはわざわざ、ご苦労なこった」
彼がそう答えると、彼女は更に怒りを増したようだ。
「その態度…やはり間違い無いか。何やら八大竜王で最強に成るとか吹聴しているそうだな」
「ああ、それか。まあ目指しているのは間違い無ぇな」
「…烏滸がましい。本来、代替わりしたばかりの竜王は出しゃばらないものだ。先代の名をも汚す事にもなる」
「で、何でお前がそれを正しに来るんだ?」
「私は先代より竜王としての尊厳と礼節を学んだ。だからこそ貴様の所業が我慢ならなかったのだ」
「そうかよ。んで、どう正すんだ?」
「それは勿論、力づくでだ。真の八大竜王の高みを、貴様に刻んでくれる」
結局暴力で解決するのか。尊厳と礼節は何処に行ったのだろう。
まあ竜族なりのやり方もあるのだろうから、此処は見守っておこう。
且つての闘技場は、異様な空気に包まれていた。
火竜の一族が観覧席を埋め、舞台の中央には火竜王と風竜王が向かい合う。
そして何故か、その眼前に俺が立っていた。
フレミアスに頼まれ、審判役を押し付けられたのだ。まあ部外者の方が公正だとは思うが。
引き受けてしまったものは仕方無い。さっさと始めよう。
「では、始め!」
俺の呼び掛けにお互いが構える。
風竜王は流麗な長剣と盾を携えている。その切っ先が彼の方を向く。
「はっ!」
掛け声と共に風が空を切る。彼はそれを察知し横に躱した。真空波のようなものだろうか。
そして彼女が駆け出し、彼の間合いの外から剣を振り抜く。
彼はそれを手甲の部分で弾き、更に間合いを詰める。
だがその直後に繰り出した拳は、盾に防がれていた。
その後も互いの攻撃を弾き、防ぐ。甲高い音が闘技場に響く。
そして一度互いに間合いを取る。
「成程…口先だけかと思いきや、最低限の実力は備えているようですね」
「随分上から目線だな。その割には一撃も入れられてねーぞ」
「…これからですよ」
彼女はそう言い、不敵に笑う。今は拮抗しているが、何か打開策があるのだろうか。
「轟雷閃光撃陣(ヴォルテック・ビーム)!」
彼女は突如魔法を放つ。風属性の最上級だ。
雷撃がレーザー状に放たれ、回避する間も無く彼を包む。
彼女は回避出来なかった事を確認し、笑みを浮かべる。
…だが甘い。此処からが彼の真骨頂だ。
彼は雷撃の中を一気に突き進み、彼女の眼前に迫っていた。
「なっ!?」
驚きの表情を浮かべる彼女に、炎を纏った拳が襲い掛かる。それは腹部に思い切り突き刺さった。
苦し紛れに放たれた剣戟は避けられ、彼は後方に飛び退いた。
だがその彼も、魔法攻撃の中を突撃したのでボロボロになっている。
しかし俺は、勝敗の行方を確信していた。
特訓時の感覚だが、彼は先程の突撃をあと数十回は繰り返せるだろう。最上位魔法にも怯まない耐久力こそが彼の本領だ。
対して彼女は、先程の一撃がかなり効いている。魔法に自信があったのだろうが、耐えられては切り札にならない。
だが今戦いを止めても納得しないだろう。俺は行く末を見守る事にした。
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