第125話

 幻竜王に逃げられた俺は、フレミアスのお付きの1人に頼み込み、魔王城へと送って貰った。

 そして早速バランタインさんの部屋に入る。

 するとフレミアスが俺を見付け、話し掛けて来た。

「おお、無事だったか!で、どうなった?」

「追い詰めたけど、結局逃げられたよ」

「そっか。んでよ、強さはどうだった?」

「俺でも苦戦した。正直、お前だと負けるだろうな」

「そうか…ふざけたやり方だが、実行するだけの実力はあるって訳か」

 するとファルナが口を挟んで来た。

「しかしのう、最強の儂まで連れて来られたのは何故じゃ?」

「いや、お前が一番弱いからな。恐らく真っ先に狙われるぞ」

「そうは言うがのう…。幻竜の一族と言えば、小手先の魔法ばかりで実力の足りない連中、という話なのじゃが」

 それが本当なら、随分と不遇な扱いを受けている事になる。

 仕方無いので、実体験で理解して貰う事にした。

「それじゃ行くぞ。…遅速鎖(スロウ・チェイン)」

「ん?おお!?か、身体が重いぞ!思い通りに動かぬ!」

「実力が互角なら、相殺できなければこれで勝敗が決まる。時空魔法はそれだけ脅威だって事を理解した方が良いぞ」

「ぬぅ…。わ、判ったのじゃ」

 どうやら納得したようなので、掛けていた魔法を止める。

 そんなやり取りをしていると、バランタインさんが口を開いた。

「今回の件、恐らく背後に居るのは白竜王であろう。幻竜王は良いように使われているに過ぎぬ」

「…何故そう思うんですか?」

「竜族の弱体化は人族の増長を招く、とあ奴は本気で考えているからだ。竜族は種族間の均衡を取る為の抑止力だからな」

 そうなると、幻竜王を仮に倒しても問題は解決しないという事だ。恐らく第2・第3の代行者が現れるのだろう。

「でも、白竜王を倒すのは流石に無理でしょう」

「そうだな。ならば話をしてみてはどうだ?」

「え?話が通じるんですか?そんな気配は無さそうなんですが」

「我と同等の存在なのだ、通じるとも。今回の行動の真意を尋ねてみれば良かろう」

「…話し合いで解決しなかったら?」

「その間に我が鍛える。幻竜王が納得する程度の強さがあれば良いのだろう?こやつ等が幻竜王を撃退出来れば、認めるしか無かろうよ」

 その言葉に他の皆も続く。

「俺としては、そうなった方が願ったり叶ったりだ」

「私も、良いように使われた借りは是非返したい」

「えー、めんどいのじゃ」

 約1名駄目なのが居るが、まあ任せておけば大丈夫だろう。

「なら、俺が白竜王に会いに行きますね」

「頼むぞ。こやつ等は我に任せよ」

 俺はその言葉を信じ、魔王城を後にした。


 さて、白竜王の居るミルス山までは相当遠い筈だ。

 なので一度村に戻り、暫く不在にする旨を告げる事にした。アルト達には嫌な顔をされるとは思うが、仕方無い。

 そんな訳で事情を説明した所、すんなり納得して貰えた。但し条件として、萌美と楓の2人を連れて行くよう言われた。

 萌美については何となく判るが、何故楓もなのか。理由を聞いても教えて貰えなかったので、気にしない事にする。

 準備も色々とあるので出発は2日後とした。水や食料だけでなく、恐らく防寒具なども必要になるからだ。

 そして2日後。馬車に荷物を積み、村を出発した。

 ミルス山は北方、グランダルも抜けた更に先のようだ。千里眼でも同じ方向を示しているので、間違い無いだろう。

 幻竜王も、3人がバランタインさんの所に居るうちは手を出せない筈だ。ならば特訓の期間もあるので、急ぐ必要は無いだろう。

 馬車はのんびりと、まずはデルムの街へと向かう。

「今回は、白竜王という方の所に行くんですよね?」

 その途中で、萌美が話し掛けて来る。

「ああ。何か気になるのか?」

「いえ、話し合いが目的との事ですが、もし決裂したらどうなりますか?」

「向こうの出方次第だろうが、兎に角戦いは避けたい。勝ち目が無いからな」

 すると楓が口を開いた。

「そんな勝てない相手に会うなんて…怖くないですか?」

「怒らせたら怖いと思うが…。バランタインさんみたいな感じなら大丈夫そうだがな。まあ結局は、会ってみないと判らないな」

 幻竜王も一緒に居た場合、話が拗れそうだ。

「まあ最悪の場合は、全力で逃げるしか無いだろ。馬車では登れない可能性が高いからな、心配なら麓で待ってて良いぞ」

「…いえ、頑張ります!」

 正直言って無理をさせたくは無いのだが、本人が良いなら受け入れるしかないだろう。


 そうして俺達は、無事デルムの街に到着した。

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