第126話

 デルムの街で一泊した俺達は、其処から数日掛けて王都に到着した。

 王都ではニーアさん経由でケビンさんを呼んで貰い、転移者の探索状況について確認した。

 状況としては残りの人物について確認している最中で、未だ結果は出ていないとの事だった。

 ついでにミルス山と白竜王についての情報が無いか尋ねてみると、白竜王については何も無かったが、ミルス山については情報を貰う事が出来た。

「拓かれた山道は無いので、馬車で進むのは無理です。馬車は麓の村に預け、徒歩で登る必要があります。また山頂には塔が立っており、中はダンジョンになっているそうです」

 この情報を貰えただけでも収穫だった。色々と準備する事が出来る。

 そして翌日には王都を出発し、国境を抜けてグランダルに入った。

 祥を助けに行った時と同じく、途中の街を経由してまずは首都へと向かう。

 俺は2人に忠告しておく。

「祥から聞いてるかも知れないが、この国では勇者や女神の話題はご法度だ。うっかり聞かれると即投獄されるから気を付けろよ」

「ああ、聞いています。侑人様の英雄譚を詠う吟遊詩人のようでした」

「私も聞きました。暫く投獄されてたのに、悲壮感が全くありませんでした。あの人、懲りてませんよ」

「…あいつの性格はもう、諦めてる。良く言えばムードメーカーだが、悪く言えばお調子者だからな」

 それでも訓練では真剣だし、俺の事も慕ってくれているので良いのだが。

 少なくとも、この国には本人も来たくないだろう。

 それよりも先に問題が1つある。

「地竜王に会うか会うまいか…どうするか」

「あの北に見える山ですよね。通り道なんですか?」

「いや、街道はあの山を迂回している。会うなら寄り道になるな」

 すると楓が口を挟んで来た。

「昔に人を助けてくれたんですよね。なら会ってみても良いんじゃないですか?少なくとも争いにはならなそうですし」

「そうですね。何かしら情報を持っているかも知れませんし」

 萌美もそう言うので、地竜王には会う事にした。

 しかしこの首都からでは少々距離がある。それなら迂回途中の宿場で馬車を預け、其処から山を登った方が良いだろう。

 なので此処では減った水と食料を補充し、翌朝北門より出発した。

 門を出て直ぐ、当時地竜王が築いたという防壁が目に入った。平地を端から端まで繋ぐ広大なもので、街道に合わせトンネルが掘られていた。

 これだけの力があるなら幻竜王にとっては対象外か、それともタイミング悪く代替わりをしているか。会ってみれば判るだろう。

 そして目的の山を迂回した先で宿場に辿り着く。

 早速宿を取り、併せて数日馬車を預かって貰う事にした。

 翌日、俺達は早速登山を開始する。それ程高い山では無いし、山頂にも雪は無い。2人とも鍛えているので大丈夫だろう。

 問題があるとすれば、山道が整備されていない所だ。なので獣道も見えないような木々の間を通り抜けて行く。

 日中でも薄暗く、獣か魔物か判別の付かない声も聞こえる。それに過去に魔物の大発生があった以上、何処か近くにダンジョンがある可能性が高い。

 そうして暫く進むと、木々が減って岩肌が目立つようになって来た。山頂が近いようだ。

 更に進むと、頂上に火口のような縦穴が空いていた。直径は100メートル程度だろうか。恐らく此処が入口だろう。

 飛び降りても良いが、帰りが困るので準備しておいたロープを垂らす。そのロープを伝い下に降りた。

 そして俺は竜人体に成る。これで少しは警戒を解いてくれると良いのだが。

 地面から横方向に延びる洞穴を進むと、灯りに照らされた広間に出た。

 其処には茶色の鱗に覆われた竜が1体、鎮座していた。他には誰も見当たらない。

 俺達が近付くと、その竜が話し掛けて来た。

「何用だ。火竜の者、そして人族よ」

「失礼致します…貴方が地竜王様ですか?」

「そうだが」

「単刀直入にお聞きします。幻竜王が今されている事はご存じですか?」

 俺がそう問うと、地竜王は納得したように答えた。

「…ああ、『竜玉継ぎ』の強要だな。知っておるぞ」

「地竜王様は対象外ですか?」

「遥か昔の戦にて、我が一族は我を除き滅んだ。それ以降、『竜玉継ぎ』のみで代替わりしておるのだ。混血を作ろうとも思わん」

「では他に、白竜王様を含めご存じな事はありますか?」

 すると地竜王は、不満げに俺を睨む。

「何故、そのような事を聞く?」

「…現在、黒竜王様の所で水竜王、火竜王、風竜王の3名を匿っております」

「幻竜王と敵対しているのか?」

「はい。…できれば戦わずに解決したいのですが」

「成程な。では今は、白竜王様の元へ向かう途中か」

「そうです。道中なので何か情報が得られないかと、寄らせて頂きました」

 すると地竜王は思案顔になった。そして一拍置き、口を開いた。

「お主、只の火竜では無いな。何者だ?」

 そう問われ、俺は竜人体を解いて答えた。

「見ての通りの人族で、異世界からの転移者です」

「竜族では無いとは…更に転移者とはな。これは面白い」

 すると地竜王はくぐもった笑い声を上げた。そして告げた。


「ならば話そう。白竜王様の真意、そして真実を」

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